抄録
ヒ素汚染はバングラデシュや西ベンガル地域を中心とする南アジア等で深刻な問題を引き起こしている。土壌中のヒ素は作物により吸収され、健康被害を引き起こす。広範囲にわたるヒ素汚染土壌の浄化は困難であることから、汚染土壌化でもヒ素を吸収しにくい作物の作出が求められている。すなわち、植物のヒ素輸送機構を解明する必要がある。最近、亜ヒ酸の輸送体がイネやシロイヌナズナで同定された。また、シロイヌナズナではヒ酸の吸収にリン酸トランスポーターが関与していることが報告されている。我々の研究においても、イネにヒ酸を与える際に、リン酸を欠乏させると、ヒ酸の毒性効果が高まることを見いだし、イネにおいてもリン酸トランスポーターがヒ酸輸送に関与している可能性が示唆された。そこで、本研究ではイネのリン酸トランスポーターのヒ酸吸収への関与を検討した。イネにリン酸トランスポーターは13種類あり、これらの発現の組織特異性やリン酸欠乏に対する応答は異なっていた。比較的発現の高いリン酸トランスポーター遺伝子にT-DNA挿入を持つ変異株では、ヒ酸の取込みが低下していることを見いだした。このことはイネにおいてもリン酸トランスポーターがヒ酸輸送に関与していることを示唆している。現在、当該遺伝子についてのRNAi系統を作出しそのヒ酸吸収について検討を進めている。