抄録
クロロフィル合成経路における代謝制御や酵素反応のメカニズムを理解するために、我々は、2002年より、クロロフィル合成に影響の見られるシロイヌナズナの変異体をスクリーニングするプロジェクトを続けている。今回、このプロジェクトにおいて、理研のトランスポゾンラインのコレクションから同定された、クロロフィル側鎖の合成に影響がある2種類の変異体について報告する。この2種類の変異体は、どちらも、フィトール側鎖の還元が不十分なクロロフィルを数%から10%程度含んでいた。それぞれ、LIL3:1遺伝子、LIL3:2遺伝子という相同な遺伝子にトランスポゾンが挿入されている事が確認された。LIL3:1およびLIL3:2タンパク質は、どちらも、LHCモチーフを持つ、機能未知の膜タンパク質として知られている。そこで、これらの変異体をかけあわせて、2重変異体を作成したところ、この2重変異体においては、クロロフィルのおよそ90%において、フィトール側鎖が全く還元されていないことがわかった。また、この2重変異体においては、フィトール側鎖の還元を触媒するゲラニルゲラニル還元酵素の蓄積が、ほとんど見られなかった。さらに、この2重変異体においては、フィトールを前駆体として合成されるトコフェロールの蓄積が全く見られなかった。これらの結果は、LIL3がゲラニルゲラニル還元酵素の蓄積に必須である事を示している。