抄録
Atg6/Vps30 はVps34とホスファチジルイノシトール3キナーゼ(PI3K)複合体を構成して、オートファジーや液胞タンパク質輸送など多様な膜動態を担っている。植物においてもPI3K阻害剤によりエンドサイトーシスやオートファジーが影響を受ける例が知られている。しかし、シロイヌナズナのAtATG6、AtVPS34遺伝子欠損株はいずれも雄性不稔となり、PI3Kのホモ変異体を用いた逆遺伝学による解析は困難であった。我々は最近、花粉特異的なAtATG6の機能相補によりatatg6の雄性不稔を回避することで、PI3K複合体の遺伝子破壊株を植物個体として得ることに成功した。得られたatatg6変異体はオートファジー能を欠損し、過敏感細胞死や老化促進などオートファジー変異体(atatg)としての特徴を示した。さらに、他のatatg変異体と異なり、atatg6植物には著しい生育阻害など多面的な表現型が見られた。これにより、植物のAtg6-PI3K複合体が花粉発芽やオートファジー以外に様々な生理機能を持つことが分子レベルでも示された。