抄録
植物は、重力・水分・光などの複数の環境刺激を感受し、これらの情報を統合して根や茎などの伸長方向を変え、生存に有利な環境に器官を伸長させる。これまで、我々はエンドウ、キュウリ、シロイヌナズナなどを用いた研究により、根の重力屈性は水分屈性に干渉することを明らかにしてきた。本研究では、重力屈性が水分屈性に干渉する機構を明らかにすることを目的として、浸透圧の異なる寒天培地を張合わせて水分勾配刺激を根に与える実験系を用いて、シロイヌナズナの重力屈性が異常な突然変異体の根の水分屈性を解析した。オーキシン誘導性遺伝子の転写の抑制因子をコードしているAXR2/IAA7の機能獲得型突然変異体であるaxr2突然変異体、およびオーキシン受容体を欠損したtir1 afb1 afb2 afb3四重突然変異体の根では、正常な水分屈性の発現が認められなかった。したがって、重力屈性と水分屈性の発現にはオーキシン応答が必要であることが示された。一方、細胞内へオーキシンを取込むキャリアを欠損したaux1突然変異体では、水分勾配刺激を与えて6時間から24時間後までの屈曲角度は野生型に比べて有意に増加した。したがって、両屈性は細胞内のオーキシン量を介して干渉している可能性が示唆された。