抄録
シロイヌナズナの側根は発生後しばらく傾斜した方向へ伸長するが、その後下方へ伸長する。演者らは、突然変異体hy5でこの転換が遅れていることに着目し、側根の伸長方向の制御機構を解析した。まず、側根の伸長方向が傾斜重力屈性によることを確かめるため、根系を90度回転させた後の側根の伸長方向の経時変化を測定した。これに、屈曲速度が重力の放射軸外側への成分と頂端側への成分の線型結合に依存するとする数理モデルがあてはまることを見出した。このモデルを用いて根が維持しようとする伸長方向(GSA)を推定し、野生型とhy5の側根の伸長方向の違いが根の伸長に伴うGSAの減少の遅れによることを明らかにした。側根の伸長方向とオーキシン信号伝達との関係を解析するためアンチオーキシンを与えると、hy5と野生型の側根はより下方へ伸長した。一方、長さや伸長方向によって根端のオーキシン濃度に有意な差はなかった。側根の伸長とともに未知の因子がオーキシン応答性を弱めることで下方への伸長を誘導していると考えられる。最後に、側根の伸長方向を制御する分子機構を明らかにするため、hy5の抑制突然変異体を探索し、FtsH11を原因遺伝子の候補として同定した。FtsH11は葉緑体とミトコンドリアに局在する膜結合型金属タンパク質分解酵素であり、コルメラで働いているとすると、アミロプラストと細胞内構造の相互作用に関わっていると考えられる。