抄録
花色の発現にはカロテノイド、ベタレイン、フラボノイドの3種が関与している。中でもフラボノイドの1種であるアントシアンは赤から青までの広い範囲の色調を発現している。この色素は基本骨格であるアグリコンの状態において化学的に不安定であり、植物細胞中で容易に退色してしまう。その為、アントシアンにおける糖転移反応は色素の安定化、さらに多様化に関して非常に重要な反応である。本研究で用いたアメリカデイゴ (Erythrina crista-galli L.) は南米原産のマメ科木本植物であり、6月から10月にかけて大型で深紅色の花をつける。アメリカデイゴ花弁はcyanidin 3-O-sophoroside、萼はpelargonidin 3-O-glucoside、また花柄はcyanidin 3-O-glucosideがそれぞれの主要色素である。このように、花の器官ごとに発現する主要色素が異なるのは、アントシアン生合成系における上流での制御とともに、これらに働くアントシアン糖転移酵素(AnGT)の酵素化学的諸性質がそれぞれ異なるためだと考えられる。そこで、本研究ではアメリカデイゴの花の各器官(花弁、萼、花柄)におけるAnGTの酵素化学的諸性質について比較検討し、アメリカデイゴの花の器官分化に伴い、発現している糖転移酵素の酵素化学的諸性質、特に基質特異性において異なる傾向を示すことを明らかにした。