抄録
開花時刻は種によって様々であり、朝、花を咲かせる種もあれば、夜咲きの種もある。機械式の時計が一般的でなかった時代、リンネはこうした様々な花の咲き具合によって時刻を知ることができる花壇「花時計」のアイデアを記している。また近年種形成における生殖の時間的隔離の観点からキスゲの開花時刻の研究も始まっている。今回我々は開花時刻の分子基盤を明らかにするために、シロイヌナズナの開花時刻を花弁の屈曲のレベルを指標として、時間生物学の観点から研究した。シロイヌナズナは朝方に咲くことが研究者の間では知られているが、その詳細は明らかではない。我々は、まず16時間明、8時間暗の日周的明暗サイクルにおいて、花弁の屈曲を調べた。明期が開始されると花弁は伸長し背軸側に展開した。そして花弁は3時間後に最大となった。4時間をすぎるとそれまでとは逆、すなわち向軸側に曲がり始めた。暗期では花は咲かなかった。この結果から、ナズナの花弁運動は、光刺激によって起きる光傾性であることが示唆される。次にこの日周運動が概日時計による調節を受けているかどうかを調べるために、ナズナに4日間の日周的明暗サイクルを経験させたのち、連続明条件下で花弁運動を調べた。すると花は主観的明期に相当する時刻に開花する概日リズムを見せた。またこのリズムの周期は23時間であった。