抄録
花成は主に光周期やバーナリゼーションによって誘導されるが、短日植物であるアサガオ、品種ムラサキは低温、貧栄養、強光などのストレスにも応答して、長日条件下で花成を誘導される。一方、品種テンダンは貧栄養ストレスには応答しない。貧栄養ストレスで花成を誘導されたムラサキは開花、結実し、形成された種子は正常に発芽して生育した。このことから、この花成は個体の生存が危うくなったストレス下で緊急に次世代を残すという生物学的意義があると考えられる。貧栄養ストレスに応答するムラサキと応答しないテンダンを用いた接木実験により、貧栄養ストレスで誘導された花成には輸送可能な花成刺激が関与することがわかった。貧栄養ストレスで誘導された花成はフェニルアラニンアンモニアリアーゼ阻害剤であるアミノオキシ酢酸で阻害され、この阻害はサリチル酸(SA)で回復した。しかし、外生SAは単独では花成を誘導しなかった。このことは、SAはストレス応答花成にとって必要条件ではあるが、十分条件ではないことを意味する。貧栄養ストレスでムラサキの花成を誘導したとき、花成遺伝子FLOWERING LOCUS T (FT)のアサガオの相同遺伝子であるPnFT2が発現した。しかし、もう一つのFT相同遺伝子であるPnFT1は発現を誘導されなかった。このことから、ストレス応答花成にはPnFT2が関与することが示唆された。