抄録
細胞壁のマトックス高分子であるペクチンは複数のドメインから構成され、ホモガラクツロナン(HG)はその一つである。HGは高度にエステル化された状態で細胞外へ分泌された後は、細胞壁においてペクチンメチルエステラーゼ(PME)によって脱メチルエステル化される。脱エステル化したHGはCa2+架橋によりペクチンのゲル化を調節し細胞壁の物性の制御に関与すると考えられている。これまでの網羅的解析により、我々はシロイヌナズナのPMEファミリーの1つであるAtPME61が花茎基部において二次壁肥厚に関与する遺伝子と共発現している事を見出した。PMEが一次壁に作用し二次壁肥厚には関与しないとすればAtPME61は二次壁肥厚以外の過程を通して花茎支持に寄与している可能性がある。そこでAtPME61の支持組織形成における役割について解析を行い、次の結果を得た。AtPME61は花茎中部から基部でPME活性があり同部位の維管束間領域に隣接する皮層で特に強く発現していた。またAtPME61の機能を欠損したT-DNA挿入変異体(pme61)は花茎基部の皮層のペクチンの脱メチルエステル化率が少なく、花茎は細く倒伏しやすいという表現型を示した。これらの結果よりAtPME61は二次壁肥厚を伴わない皮層細胞壁においてペクチンを脱メチルエステル化する事によりゲル化を調節し、花茎支持に必須の役割を担っていることが示唆された。