抄録
種子休眠は多くの種子植物にとって発芽時期を制御するために必要である。シロイヌナズナにおいて、ペルキシソーム膜に局在するABCトランスポーターであるPED3の欠損株は発芽不能に陥る。我々は変異体種子を用いたトランスクリプトーム解析を行った。ped3変異体種子において発現が増加している遺伝子の上流1500kbのコンセンサス配列を抽出したところ、得られた全てのコンセンサス配列にABA responsive element (ABRE)が含まれていた。さらにped3変異体ではABREに結合する転写因子であるABI5の発現が増加していた。ped3abi5二重変異体では発芽率の大幅な回復が確認された。これより、ped3変異体における発芽不全はABI5が関与することが示された。さらにABI5の制御下において発芽を制御する因子を明らかにするために、ped3変異体とped3abi5二重変異体のトランスクリプトーム解析を行った。ペクチン分解を阻害するタンパク質、PGIP1、PGIP2はped3変異体において強く発現しているものの、ped3abi5二重変異体ではWTと同程度であった。さらにペクチナーゼ処理はped3変異体種子の発芽率を回復させた。以上より発芽にはペクチンの分解が必要であり、ped3変異体の発芽不全はABI5制御下にあるPGIP1, 2、の異常な発現増加によることが示唆された。