抄録
植物の細胞内では様々なオルガネラが恒常的に流動している.この原形質流動は古くから研究されており,細胞骨格のアクチンとミオシンが重要な働きをしていることが知られている.しかし,個体レベルにおける原形質流動の意義はいまだに不明である.そこで我々は,シロイヌナズナのミオシン遺伝子欠損変異体を作出した.特にそしてミオシン二重変異体が,葉柄・花茎・胚軸・根という様々な器官において,光と重力に対して過剰な屈性応答を示すことを発見した.今回新たに,花茎重力屈性も過剰になることを見出した.この結果は,ミオシンが光と重力に対する環境応答を抑制するブレーキとして働くことを示唆している.さらに,このミオシン二重変異体の花茎の細胞の原形質流動を観察したところ,ミオシン遺伝子が特異的に高く発現している維管束において野生型に比較して原形質流動が遅いことを見出した.維管束の原形質流動についてはこれまでほとんど知見がなく,その生理学的な役割も全く明らかではない.過剰屈性応答と維管束の原形質流動異常は他のミオシン二重変異体では見られなかった.従って,この2つの現象が密接に関連していること,即ち,原形質流動の意義の1つが屈性応答の調節機構にあるという考え方が浮上してきた.