抄録
我々は窒素供給に応答した遺伝子発現制御の分子機構を解明するために、イネの窒素応答に関わる転写制御因子の探索を行ってきた。OsMYB-NR2は硝酸処理によって迅速に発現が誘導される転写因子である。昨年度の本会において、MYB-NR2の標的遺伝子の候補としてトリプトファン代謝に関わる2つの遺伝子を同定し、さらにMYB-NR2過剰発現イネMYB-NR2OXにおいてセロトニンが蓄積していることを報告した。今回、MYB-NR2OXにおけるアミノ酸量を測定したところ、地上部のフェニルアラニン含量がコントロール株の約1.5倍に増加していることを見出した。形質転換カルスを用いたマイクロアレイ解析の結果では、フェニルアラニン合成経路の最終段階を担うアロゲン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子の発現がMYB-NR2OXで33倍に上昇しており、さらにフェニルアラニンから様々な二次代謝物質を合成する経路の20個以上もの遺伝子が発現上昇を示していた。さらに、DNA-binding site selection実験により MYB-NR2の認識配列を明らかにした結果、これらの遺伝子の上流領域にはこの認識配列が複数存在していることが判明した。これらの結果に基づき、フェニルアラニン代謝におけるMYB-NR2の役割について考察する。本研究は生研センター「新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業」に基づくものである。