抄録
植物の生殖成長過程は、栄養成長過程に比べ、様々な環境ストレスに感受性が高く、結果として不稔を生じることが知られている。特に雄性配偶子の形成過程は高温や低温などの温度ストレスに感受性が高く、種子稔性の低下を引き起こす。生殖成長過程が比較的よく同調するオオムギ(はるな二条)は5日間の高温処理(30℃昼/25℃夜)により花粉形成に早期から異常が生じ、完全に不稔となる。高温障害が生じるときには、オーキシン誘導性遺伝子や細胞複製関連遺伝子の発現が幼穂特異的に低下し、葯壁細胞では細胞の分裂が抑制されていた。また、高温によって葯壁細胞で内生オーキシン量の低下が観察された。そこで、高温処理と同時にオーキシン散布処理を行うと、高温による雄性不稔は抑制され、正常な花粉が形成された。同様にシロイヌナズナでもオーキシン処理によって高温による花粉形成異常が抑制されていることが観察された。さらに、オーキシン生合成遺伝子yuccaの発現が高温によって幼穂で低下していることが観察された。これは内生オーキシン量の低下がオーキシン生合成の低下に由来するものであることを示唆している。これらの結果は、葯発生過程における高温障害がオーキシン量の低下に起因する様々な遺伝子の発現の変動によるものであることを示唆している。