抄録
温帯性植物は、低温に一定期間曝されると凍結耐性が増大する(低温馴化)。低温馴化機構は非常に複雑であるが、細胞膜の脂質組成変化が重要な働きをすることが明らかになっている。近年、細胞膜には、マイクロドメインと呼ばれるステロール脂質やスフィンゴ脂質に富んだ領域が存在することが報告されているが、植物細胞における機能については未だ不明の点が多い。本研究では、凍結耐性が大きく異なる二種の単子葉植物(カラスムギとライムギ)の低温馴化過程における細胞膜マイクロドメインの脂質組成変化を解析し、さらに、シロイヌナズナの細胞膜マイクロドメイン脂質組成との比較を行った。両種において全細胞膜画分の脂質組成と比較した場合、マイクロドメイン画分はステロール脂質(ライムギは遊離ステロール、カラスムギはアシルステリルグルコシドが主要成分)に富んでいたが、リン脂質の割合は大きく減少し、スフィンゴ脂質(グルコセレブロシド)は同程度であった。低温馴化過程においては、遊離ステロールの減少とリン脂質の増加が両種で共通してみられた。この低温馴化過程におけるマイクロドメイン脂質変動は、全細胞膜画分における変動パターンとは異なっていた。さらに、現在、シロイヌナズナ細胞膜マイクロドメイン脂質組成やそれに対する低温馴化の影響との比較を試みており、植物の低温馴化、凍結耐性と細胞膜マイクロドメインの関係について考えてみたい。