抄録
イネが様々な病原菌に対して示す抵抗性は複数の遺伝子が関与する複雑な過程である.この過程にどのような遺伝子群が関与しているのか,そしてその制御メカニズムを明らかにするため,病原糸状菌であるイネいもち病菌(Magnaporthe oryzae)と,病原細菌であるイネ白葉枯病菌(Xanthomonas oryzae)の2種類の病原菌をイネに接種し,感染過程におけるイネの遺伝子発現をマイクロアレイ実験により解析した.いもち病菌においては,抵抗性遺伝子Piaの有無による抵抗性と罹病性それぞれのイネ葉身にいもち病菌胞子をスプレー接種し,経時的な遺伝子発現パターンについてクラスター解析した.その結果,抵抗性イネと罹病性イネの間に最も大きな差異が認められるのは接種3日後であることがわかった.白葉枯病菌においては,親和性である野生型と変異体を用いて葉身先端の切断接種を行った.同様のクラスター解析から,変異体では発現パターンに水処理との差異が少なく,野生型において発現パターンの差異が大きくなるのは接種4日後以降であることが示された.現在,それぞれの病原菌で認められた差異がどのような遺伝子群によるものかについて解析を進めている.また,いもち病菌感染時のイネの応答については,Piaとは異なる抵抗性遺伝子Pishによる遺伝子発現を解析中なのでその結果についても報告する.