抄録
日本におけるダイズの8割以上が水田転換畑で栽培されており、その収量および品質を低下させる湿害の発生が問題となっている。ダイズの湿害発生機構を解明するために、出芽期のダイズに冠水処理し、早期におけるタンパク質の発現およびリン酸化状態の変動について検討した。播種後2日後のダイズ実生を冠水処理し、12時間後の根および胚軸からタンパク質を抽出し、CyDye 蛍光色素で標識後、二次元電気泳動解析により冠水処理と無処理間で比較し解析した。検出された555個のタンパク質スポットの内、発現レベルが顕著に変動していた17個のタンパク質スポットを質量分析計により同定した。その結果、冠水処理により解糖に関わるタンパク質の増加、またフェニルプロパノイド代謝に関わるタンパク質が減少していることが明らかになった。さらにタンパク質を二次元電気泳動後、Pro-Q ダイアモンド染色によりリン酸化タンパク質スポットを検出し、同様に比較解析および同定した。121個のタンパク質スポットのうち翻訳に関わるタンパク質を含む16個のタンパク質スポットのリン酸化状態が変化した。これらの結果はダイズの出芽期の湿害発生機構において解糖およびその解毒機構の誘導が主要な反応で、この早期の応答におけるタンパク質合成にリン酸化が関与していることを示唆する。