抄録
地衣類は菌類に藻類あるいはシアノバクテリアが共生している。他の光合成生物に比べ乾燥や低温に強く、乾燥下で強光耐性を示す。これは過剰な光エネルギーを高速で熱に変換する独自の機構によることが最近明らかになった。我々は極低温での時間分解蛍光測定により、消光分子が光化学系II光捕集アンテナとコアアンテナの両方に存在していると推定した。緑藻Trebouxiaを共生する地衣類では、乾燥時には、740 nmに蛍光を出す色素がエネルギーを受け取ることで、消光現象に寄与していると予想した。今回は地衣類イワカラタチゴケから単離した緑藻Trebouxiaを用いた結果を報告する。単離直後の乾燥緑藻で、乾燥地衣類同様の測定を行った結果、地衣類で観測されるような高速でのエネルギー消失現象は確認されなかった。イワカラタチゴケに含まれる糖類を単離直後の緑藻に加え乾燥させると、乾燥地衣類と似た高速蛍光減衰を示した。このことは糖類の影響で光化学系II色素タンパク質内の環境が変化し、消光がおこるという機構を示唆する。