抄録
微細藻類の寄託株の低温保存法の確立を目指して、単細胞真核緑藻クラミドモナスをモデルとして低温応答機構の解析を進めている。低温での生存率、増殖能を解析したところ、25℃明所で培養した対数増殖中の細胞を4℃暗所で培養した場合、7日目までは非常に高い生存率が維持されたが、その後は徐々に低下した。70日目までにはほとんどの細胞が死滅すると考えられたが、生残した細胞の増殖能は低温処理前の条件で培養した場合とほぼ同程度であった。このことから、クラミドモナスは低温傷害によって生存性が低下するが、ある程度の適応能力も有している可能性が示唆された。さらに低温応答の分子機構の解析を進めるため、マイクロアレイを用いた網羅的な遺伝子発現解析を行った。その結果、転写因子、光合成関連、代謝酵素など様々な遺伝子の発現が上昇もしくは低下することを見出し、さらにRT-PCRによって低温への応答の特異性を解析したところ、概日リズムに関係する遺伝子が発現上昇することを明らかにした。低温馴化能を有するシロイヌナズナにおいて概日リズムと低温応答の密接な関係が示されており、微細藻類においても高等植物と類似の機構の存在の可能性という興味深い知見が得られた。