抄録
我々の食の安全を脅かす要因の一つに、有害物質であるカドミウム(Cd)の農作物への蓄積がある。農作物へのCdの蓄積を抑制する技術の確立には、植物体内におけるCdの動態を解明し、それらを制御する必要がある。我々がこれまでに行った研究で、植物のCd処理に応答して篩管液中のグルタチオン(GSH)濃度が上昇することを確認した。本発表では、GSHを植物体の特定の部位(根、ソース葉、シンク葉)に施用し、それらがCdの移行と蓄積に及ぼす影響を調べた。
実験には水耕栽培をしたアブラナ(品種:農林16号)を用いた。植物のCd処理は10μMの濃度で2日間とし、同時にこれらの植物にGSH処理を行った。収穫した植物の地上部・地下部におけるCd蓄積濃度はICP発光法により測定した。また、植物のCdの吸収・移行・蓄積の様子をポジトロン放出核種イメージング装置(PETIS)によってモニタリングした。
根にGSHを処理した植物では、地上部へのCd蓄積濃度が、通常のCd処理を行った植物に比べて、約20%に減少していた。一方で、地下部におけるCdの蓄積濃度には有意な差は見られなかった。この時、亜鉛、鉄などの重金属元素には植物体の地上部への移行と蓄積の抑制は見られなかった。また、PETISを用いた実験でも根へのGSH処理が植物体の地上部へCdの移行・蓄積を抑制することを確認できた。