抄録
ホンモンジゴケ(Scopelophila cataractae)は、寺院の銅葺き屋根の下など銅濃度の高い環境下に分布、生育し、体内に銅を蓄積する生理学的に興味深い蘚類である。しかし、その銅耐性や高濃度の銅環境下への効率的な分布拡大様式のメカニズムに関する生理学的な知見はほとんど得られていない。そこで、我々はホンモンジゴケ原糸体の銅に対する応答性について生理学的解析を行った。まず、培養2週間後の原糸体コロニー成長への影響を調べた結果、銅添加区(~800μM)では銅無添加区に比べて、最大で1.3倍の成長促進がみられた。一方、銅無添加区では、対照的に無性芽形成数の増加が生じた。これらの結果から、ホンモンジゴケが環境中の銅濃度に応答して、形態形成を変化させることが示唆された。現在、無性芽形成制御の詳細なメカニズムと主な銅蓄積の場である細胞壁への影響なども含め、統合的な銅応答性の解析を進めている。本発表では、上記の結果と、そこから考えられるホンモンジゴケのユニークな生理生態について報告したい。