抄録
動物・植物病原菌の中には、3型分泌系と呼ばれる細胞膜上の複合体により、宿主細胞へタンパク質(エフェクター)を注入するものが知られている。エフェクターは宿主細胞の防御システムを破壊することで病原菌の感染を促進する。一方、宿主の中には、エフェクターを認識して防御応答を起こすものも存在する。マメ科植物と共生する根粒菌の中にも3型分泌系を持つものが見出されているが、エフェクターや宿主側の標的については不明な点が多い。本研究では、ミヤコグサの根粒菌Mesorhizobium loti MAFF303099株の3型分泌系について解析を行った。
3型分泌系関連遺伝子群の発現は,マメ科植物由来のフラボノイドにより制御されており、T3SSがマメ科植物への感染時に働いていることを示唆した。野生株とT3SS遺伝子破壊株の共生能を比較した結果、T3SSの変異により共生能力が低下する宿主植物と、逆に変異株の方がよく共生する宿主の存在することが判明した。共生成立を阻害するエフェクターとして同定されたMlr6361は、内部に40~45アミノ酸残基からなる15回の繰り返し配列を持ち、C末端にシキミ酸キナーゼ様ドメインを持つという特徴を有していた。相同タンパク質が植物病原菌にも存在していることから、Mlr6361は宿主により病原菌由来として認識され、感染抑制シグナルを誘導している可能性がある。