抄録
ケミカルバイオロジーは、生体機能を阻害または亢進する低分子有機化合物をツールとして用い、その標的分子や作用機序から生命現象を理解しようとする研究手法である。我々はケミカルバイオロジー手法を用いることにより、植物の病害応答機構の解明を目指している。これまでにシロイヌナズナ培養細胞とトマト斑葉細菌病菌DC3000 Rpm1株を用いた独自のアッセイ系を確立し、化合物ライブラリーを使った大規模スクリーニングによって防御応答の指標である過敏感細胞死を亢進する薬剤を7種類単離することに成功した。そしてこれらの薬剤はシロイヌナズナ植物体に病害抵抗性を誘導することを明らかにしている。これらの薬剤の作用様式は、サリチル酸(SA)内生量の変化、並びにSA欠損変異体であるsid2における作用の有無の検証により、1.SA合成活性化型、2.SA作用模倣型、3.SA不活性化経路阻害型、に分類されることを明らかにした。単離した薬剤のうちCB_8、CB_9及びCB_11はSAを不活性化する酵素として知られるSA配糖化酵素(SAGT)の活性を阻害していた。今回、シロイヌナズナのSAGTの一つであるUGT74F1の大腸菌リコンビナントタンパク質を用い、これら薬剤のSAGTに対する阻害効果の酵素学的解析を行った。UGT74F1の反応速度論と薬剤の阻害定数からSAGT阻害機構を考察する。