抄録
アジア野生イネのルフィポゴンは栽培種のサティヴァ(ジャポニカ、インディカなどの多様なグループを含む)の祖先と考えられる。本研究では、野生及び栽培イネの進化過程を明らかにすべく、約2000のルフィポゴン(W1943)完全長cDNAとジャポニカ及びインディカのゲノム配列を比較した。近縁種の系統樹樹形では遺伝子系統樹が種系統樹と一致しない系統樹不整合性があることが知られており、期待されたとおり1つの主要系統樹と2つの少数派系統樹を得た。ここで、W1943がジャポニカに近いという主要系統樹の樹形は先行研究と一致するものであった。また、集団遺伝学の理論から予想される不完全遺伝子分岐に加え、ジャポニカとインディカ間の交雑も示唆された。加えて、ジャポニカ栽培種で失われたと思われる遺伝子も同定し、ルフィポゴンにしかない15の遺伝子が浸水や傷害の条件下で発現していることを実験的に確かめた。本研究で我々は、近縁種の複雑な進化過程を明らかにする上で系統樹不整合性の解析の重要性に光を当て、また、イネ栽培化過程での遺伝子喪失の可能性についても議論する。