抄録
栽培イネ(Oryza sativa)は、アジアの野生イネ(O. rufipogon)から栽培化されたことが知られており、種子脱粒性の喪失は栽培化の最も初期に生じたと考えられている。我々はこれまでの研究から、栽培イネO. sativa 日本晴と野生イネO. rufipogon W630の脱粒性を制御する効果の大きい2つのQTLを同定し、それらはこれまでに報告されたqSH1とsh4と同じ領域にあることを確認した。栽培化は野生イネを対象に始められてきたため、非脱粒性遺伝子の効果を検証するためには、野生イネの遺伝的背景で脱粒性の評価を行う必要が考えられる。そこで、栽培イネ(日本晴)の持つqSH1とsh4の非脱粒性遺伝子を戻し交雑と選抜によって野生イネの遺伝的背景に導入した系統を作出し、これらの植物において脱粒性を調査した。興味深いことにどちらか片方の非脱粒性遺伝子をホモに持った場合においても、自然脱粒が生じることが明らかになった。また、qSH1とsh4座ともに栽培イネの非脱粒性遺伝子に置き換えた植物体においても、脱粒強度は日本晴の半分程度であった。これらの結果から、野生イネの遺伝的背景では、効果の小さな複数の微働遺伝子が種子脱粒性の制御に関与していることが示唆された。