抄録
LEAFY(LFY)遺伝子は種子植物の花芽形成を司るマスター遺伝子である。LFY相同遺伝子は陸上植物の全ての系統(被子植物、裸子植物、シダ植物、コケ植物)で存在が確認されている。しかし、被子植物における花芽形成制御以外のLFYの機能についてはあまり知見がない。コケ植物では、生活環のほとんどが配偶体世代で、胞子体世代は短期間に限られる。コケ植物のLFY相同遺伝子は、胞子体世代(2n)のみならず配偶体世代(n)でも発現していることが確認されているが、特に配偶体世代において、その機能は未解明である。
当研究室では、陸上植物進化の最も基部で分岐した苔類ゼニゴケ(Marchanita polymorpha)からLFY相同遺伝子MpLFYを単離し、解析を進めてきた(2009年、2010年度年会)。MpLFYは生活環を通じて発現し、特に配偶体世代の雄性生殖器官と胞子体で高いレベル発現していることがわかった。MpLFYの過剰発現株では、葉状体の成長阻害と雄性生殖器官の形態異常が観察された。これらの結果から、MpLFYが胞子体世代だけでなく、配偶体世代においても機能する可能性が示唆された。配偶体世代におけるLFY相同遺伝子の機能は、ほとんどの植物において単一コピーでありながらマスター制御因子として進化を遂げてきたLFYの祖先的機能を知る手がかりとなると期待される。