抄録
表皮細胞は、トライコーム、気孔、根毛などさまざまな形態や機能に分化する。成熟した地上部表皮細胞の表面に形成されるクチクラ層は、水分蒸発や外敵の侵入、組織の癒着を防いでいる。これまでに、転写因子WAX INDUCER/SHINE (WIN/SHN)がクチン及びワックス合成を正に制御することが知られているが、その他の制御因子は明らかになっていない。そこで、CRES-T法の適用により器官が接着する表現型を示す転写因子をスクリーニングし、EPIDERMAL DEFECT1 (EPD1)を同定した。シロイヌナズナにおいてCaMV35Sプロモーター下で、EPDと転写抑制ドメイン(SRDX)を融合したキメラリプレッサー(EPD1SRDX)を発現させたところ、つぼみ表面や栄養器官の接着がみられ、エピクチクラワックスの結晶が減少していた。また、遺伝子発現解析などの結果からEPDはWIN/SHNの上流で機能することがわかった。一方で、EPD1SRDX植物では表皮細胞の形態異常も認められ、表皮細胞特異的マーカー遺伝子ATML1の発現が低下していた。さらに、EPD1SRDXを導入したトレニアの花弁において表皮細胞が欠損していることがわかった。以上により、EPDはクチクラの形成だけでなく、表皮細胞の分化を広く制御する転写因子であることが示唆された。