抄録
一般的に被子植物の葉は、向背軸の極性に依存する機構で葉身が平面成長し、平たい形態を示す。一方、背軸面に相当する組織のみで葉身が構成される「単面葉」をもつ植物のなかには、平たい葉身を形成する種が多く存在しており、葉の向背軸極性に依存しない独自のメカニズムによって葉が平面成長できる仕組みが進化したと示唆される。我々は系統的に近縁な2種のイグサ属植物、平たい単面葉をもつ「コウガイゼキショウ」および断面が丸い単面葉をもつ「ハリコウガイゼキショウ」を用いた比較解析を行い、この課題に取り組んできた。本発表では、オーキシンが単面葉葉身の平面成長を制御する可能性を見出したので、報告する。
まず、コウガイゼキショウとハリコウガイゼキショウの葉原基では、オーキシン応答性遺伝子GH3が、明確に異なる発現パターンを示していた。また、コウガイゼキショウの芽生えに外因性オーキシンあるいはオーキシン輸送阻害剤を処理することで、オーキシンの分布パターンを乱した結果、葉身は平面成長性を失い、断面が丸い構造へと変化した。さらには、この平面成長の消失は、葉の中央-周縁極性分化に必要な因子の発現消失を伴った。したがって、内在性オーキシンが特定の分布パターンを形成することが、単面葉の初期の平面成長および葉の極性分化の促進に必要であり、平たい単面葉の形態形成に寄与することが示唆された。