抄録
クロマチンの状態はエピジェネティック制御の基礎となっている。DNA複製に伴うクロマチンの再構築は、エピジェネティック情報の伝達に不可欠であるが、そのメカニズムについては未だ不明な点が多い。我々は、クロマチン再構築に寄与することが示唆されているシロイヌナズナの核内因子BRU1について解析を行っている。これまでの解析からBRU1欠損株は、ヘテロクロマチン構造の不安定性や構成的なDNA損傷応答を示すことが示されていた。本研究では、bru1がSTMやFUS3など、組織分化の鍵となる転写制御因子であり、かつポリコーム群産物による発現抑制を受ける遺伝子の制御異常を引き起こすことを示す。また、マイクロアレイを用いた解析でも、bru1で発現上昇する遺伝子が、しばしばポリコーム群産物による発現制御に関わるヒストン修飾(H3K27me3)の標的となっていることが示された。以上のことから、bru1は異なるタイプのエピジェネティック制御に広範に影響することが示唆された。一方で、bru1で発現上昇する遺伝子の多くは染色体上で偏在し、174~499 kbのクラスターを形成していた。しかしながら、このクラスター領域には、これまでに知られたエピジェネティックマークの偏在は見られない。このクラスターがどのような異常を示しているのか、現在さらに解析を進めている。