抄録
DNAチェックポイントとは、ゲノム上のダメージや複製フォークの進行阻害といった問題を感知し、直ちに細胞周期を停止させる仕組みである。このチェックポイント機構が機能しなければ、ゲノムが正確に複製される前に細胞分裂が生じてしまうため染色体異常が生じ、細胞を正常に維持出来なくなる。
植物におけるDNAチェックポイントの研究は酵母や動物に比べて遅れをとってきたが、近年になって動物のチェックポイント因子のオルソログがシロイヌナズナにおいていくつも単離されていることから、植物においてもチェックポイントは重要な役割を果たしていると考えられる。その一方で、動物のチェックポイント因子の中には、いまだ植物では見つかっていない因子もあることなどから、植物と動物のチェックポイントの仕組みは異なることが予想される。これまでに我々は、植物のみがもつチェックポイント因子としてシロイヌナズナの転写因子SOG1を単離し、その機能解析を行ってきた。その中で、SOG1の働きは動物のガン抑制遺伝子であるp53と似ているが、その両者にアミノ酸配列のホモロジーがないことが明らかになり、植物は進化の過程で動物とは異なったチェックポイント機構を獲得した可能性が考えられた。現在はSOG1を中心としたさらなる解析を行っており、これによって植物に特異的なチェックポイント機構の仕組みが明らかになることを期待している。