抄録
強い毒性を示すカドミウム(Cd)に対し、植物はファイトケラチン(PC)によるキレート化を主要な解毒機構としてもつことが知られている。我々はPC系以外のCd耐性機構に変異をもつシロイヌナズナのCd高感受性変異株(cadmium sensitive1;cds1)を用いて新規のCd耐性遺伝子の同定を試みてきた。遺伝学的マッピングの結果、cds1の原因遺伝子は第4染色体下腕部約70kbp内に位置しており、この領域内には27遺伝子が存在することが明らかとなった。これら27遺伝子のORF領域の全塩基配列を決定し、各遺伝子の発現解析を行った結果、2つの遺伝子に跨る約2.5kbpが欠損しており、この2遺伝子のみ発現が認められなかった。2遺伝子のうちシキミ酸キナーゼ(AtSK2)をコードする遺伝子の全ゲノム配列をcds1に導入した結果、Cd高感受性が回復したことから、AtSK2がcds1の原因遺伝子であることが明らかとなった。シキミ酸キナーゼ(SK)はシキミ酸経路で働く酵素で、現在までにSKがCd耐性に関わるという報告はされておらず、本報告が初めてである。一方、シキミ酸経路の代謝産物の一部はCdに応答して蓄積が増加することや、サリチル酸やトリプトファンなどの代謝産物がCd耐性を向上させることが報告されており、今回の結果からシキミ酸経路がCd耐性に重要な役割を果たしていることが新たに示唆された。