抄録
ホスホリパーゼD(PLD)は生体膜の構成成分の一つであるホスファチジルコリンをコリンとホスファチジン酸(PA)に加水分解する酵素で、細胞内情報伝達に関わる。シロイヌナズナのPLDには、真核生物に保存されているPX-PH PLDと、植物特異的なC2 PLDの2つのタイプが存在する。PX-PH PLDをコードするPLDζ1遺伝子は転写因子GL2に直接制御され、根毛の発生パターン形成や細胞形態形成に関与する。そこで我々はPLDζ1の根毛形成過程における細胞内機能の解明を目指した。
既に報告されているPLDζ1遺伝子のT-DNA挿入変異体では、根毛発生パターンおよび根毛形態の異常は見られない。しかし、そのT-DNA挿入変異体はPLDζ1遺伝子の機能が保持されている可能性があることが判った。次に、遺伝子機能欠損変異体であると考えられる新たな変異体を用い、遺伝学的解析を行った。この変異体のT-DNA挿入ホモの系統では、一部の幼植物体は成長阻害及び、致死の表現型を示すが、大部分の個体は有意な表現型を示さない。そこで、PLDζ1-YFP融合タンパク質をコードする導入遺伝子を用いた相補実験により、この表現型がPLDζ1遺伝子機能の欠陥によることを確かめた。さらにこの相補体植物を用い、PLDζ1-YFPの細胞内局在性を観察した。