抄録
植物細胞の分化転換過程におけるクロマチンの動態および遺伝子の発現変動に関する新たな知見を得るため、ヒャクニチソウ単離葉肉細胞木部分化系を用いて、分化過程でのヒストン修飾の変動を調べた。その結果、ヒストンH3のアセチル化レベルは培養開始後に上昇し、分化の方向性が決定づけられると考えられる時期に下がることがわかった。そこで、管状要素分化に対するヒストン脱アセチル化酵素阻害剤TSAの与える影響を観察したところ、阻害剤の濃度および添加時間に依存的して分化が抑制された。特に、分化の方向性が定められると考えられる時期に添加したとき最も分化が抑制された。さらに、ヒャクニチソウジーンチップ解析により、TSA添加が遺伝子発現に与える影響を調べた。その結果、分化の進行に伴って発現量が増大するZ14693とTSA添加により一層発現量が増大するZ1282の2つのヒストン脱アセチル化酵素遺伝子が見出された。また、TSA 添加から6時間後に、約60の転写関連因子が2倍以上の高発現を示し、中でも転写コリプレッサーTPLに似た遺伝子群の発現が顕著に上昇した。これらにより、管状要素分化転換過程におけるヒストンアセチル化/脱アセチル化の制御の重要性が示唆された。これらの結果を基に、分化過程における遺伝子発現の制御とクロマチン修飾の関連について考察する。