抄録
植物は根において鉄を可溶化し吸収する機構を持っている。根における鉄吸収の機構は全身性の長距離シグナルと根における局所的シグナルに制御されることが知られている。しかし、長距離シグナルそのものついては未知であり、また、どのような制御機構を経て根における鉄吸収を活性化させているのかは知られていない。これを明らかにするために我々はマイクロアレイを用いてシロイヌナズナの鉄欠乏応答を解析した。
根において鉄欠乏に応答する遺伝子を、長距離シグナルと局所的シグナルそれぞれに影響を受ける強度によって分類した。長距離シグナルに応答した遺伝子群、局所的シグナルに応答した遺伝子群をGene Ontologyに基づいて分類したところ、これら2つのシグナルはそれぞれ別の機能を持つ遺伝子群を制御することが分かった。さらに我々は、全身性の長距離シグナルを生産するために働く遺伝子を見つけるために、地上部と地下部で共通して鉄欠乏に応答する遺伝子に注目した。意外にも地上部と地下部の鉄欠乏で共通して発現量が増加した遺伝子は8つのみであり、4つのbHLH転写因子とニコチアナミン合成酵素を含んでいた。我々の結果と近年のいくつかの報告から、鉄キレート剤であるニコチアナミンが鉄吸収のための長距離シグナルとして働く可能性を示唆された。