抄録
柵状組織は葉の向軸側にある葉肉細胞から成る組織で、強光によって縦に長く伸長する。シロザにおいて柵状組織が発達する際には、下位の成熟葉が強光を感知して、上位の未成熟葉にその情報が伝わることや、シロイヌナズナにおいて細胞の縦方向への伸長に青色光が関与することが報告されているが、その詳細なメカニズムは明らかになっていない。そこで我々は柵状組織の発達を誘導する長距離シグナル伝達機構を解明するためにシロイヌナズナを用いて解析を行った。成熟葉に強光を照射し、弱光条件下で新しく形成された葉の形態を調べたところ、柵状組織の発達が見られたことからシロイヌナズナにおいても成熟葉から未成熟葉への長距離シグナルにより柵状組織が発達することが明らかとなった。次に青色光シグナルが長距離シグナルの上流で作用するか調べるために、赤色光下で下位の成熟葉にのみ青色光を照射した。赤色光下で新しく形成された葉では、柵状組織の発達が見られなかったことから、青色光は柵状組織の発達を促進するが、柵状組織が発達する際の強光シグナルとして未成熟葉に伝達されないことが示唆された。また、環境ストレス応答機構に関与するreactive oxygen species (ROS)の一種であるH2O2を成熟葉に処理した所、処理後新たに形成された葉において柵状組織が縦方向へと伸長し、H2O2シグナルが柵状組織の発達に関与する可能性が示唆された。