抄録
タンパク質プレニル化は,原生生物,糸状菌,哺乳類,高等植物など真核生物で幅広く確認されている翻訳後脂質修飾の一つであり,標的タンパク質の細胞内局在,タンパク質間相互作用,活性などに影響を与えることが知られている.プレニル化反応では,ファルネシル二リン酸やゲラニルゲラニル二リン酸に由来するプレニル基が,タンパク質プレニル基転移酵素(PPTases)によって標的タンパク質のC末端に存在する特徴的なモチーフのシステイン残基に転移される.高等植物におけるPPTaseのノックアウト変異体は,アブシジン酸やオーキシンに対する高感受性,メリステムの肥大化,花の形態異常などの表現型を示すことから,タンパク質プレニル化が植物の環境適応戦略や細胞増殖,細胞分化において重要な働きを担っていることが示唆されてきた.しかし,肝心の標的タンパク質群についてはその一部が同定されているのみで,大部分がC末端のモチーフ配列からの推定に留まっており,プレニル化を介したタンパク質機能の制御についてもほとんど明らかにされていない.
本発表では,これらの課題を解決する第一歩として,哺乳類の系で確立されているアザイド基質(アザイドファルネソール,アザイドゲラニルゲラニオール)を用いた手法を応用して,nano-LC-MS/MSによるシロイヌナズナ培養細胞からのプレニル化タンパクの網羅的質同定を試みた結果を報告する.