抄録
近年メタボロミクスは、動植物の代謝を網羅的に解析するだけでなく、遺伝子機能を解明する上で重要な役割を担っている。本研究は、すでに代謝物変動が報告されているシロイヌナズナ変異株50ラインから、サイレントフェノタイプを選定し、ストレスと代謝の変動および遺伝子機能との相関を行うことを目的とした。サイレントフェノタイプとは、遺伝子に変異があるが、形態や色など見かけ上の表現型に変化が認められない変異体であるが、これら変異体の代謝物総体(メタボローム)に変化が起きている可能性がある。本研究ではサイレントフェノタイプの選定に、形態観察とこれまでに築いたGC-TOF/MSメタボロミクスパイプラインを用いた。MS培地上でシロイヌナズナ野生型(Col-0)と変異株50ラインを生育させ、形態観察から、50ラインのうち64%(32検体)をサイレントフェノタイプと判定した。またシロイヌナズナ地上部抽出物をGC-TOF/MSし、多変量解析から64%のサイレントフェノタイプのうち、19%にメタボロームの変動が見られた。我々はこの中から、γ-グルタミルシステインリガーゼ遺伝子の変異体であるpad2-1を選定した。本変異体は野生株と比較してグルタチオンの減少が報告されている。現在、酸化ストレス下でのメタボロームをGC-TOF/MS、LC-TOF/MS、LC-IT-TOF/MSの3つのパイプラインで解析している。