抄録
近年、農作物の安全性・味・栄養分への関心が高まっている。かつて、農作物の収量を増やすために大量の化成肥料や農薬を使用した栽培が行われてきた。しかし、現在では消費者の安全・安心志向の高まりや、環境保全の観点から無農薬・減農薬の作物や化成肥料の量を減らした作物の生産が奨励されている。また、消費の現場では、有機作物が無機栽培で生産されたものに比べて、味や香りさらには健康にも良いとされている。しかし、栽培方法によって代謝成分に違いがあるのかについて、科学的根拠は今までに示されていない。本研究では、有機肥料と化成肥料、またそれぞれに農薬を使用したものの4区に分けてミニトマトの栽培を行った。可食部から可溶性画分を抽出し、一次元プロトンNMRスペクトルを観測した。それらの成分の違いを、主成分分析することによって考察した。プロトンNMRでは成分を分離することなく、プロトンを有する全ての物質を測定することができる。このため、どの代謝成分によって味・栄養分などの差が生じるかわからない際に、主成分分析と組み合わせて要因を推察することが可能である。主成分分析の結果、有機無農薬区と化成無農薬区では、二つの区の要素の間には違う傾向が見られた。ローディングの値から、糖がこの傾向に関与していると推察された。今後は二次元NMRを用い、違いに関与している物質の同定を行う予定である。