抄録
東北育種場では、東北各地より成長・形質の優れたブナを選抜し、育種への応用をめざしてつぎ木増殖による保存を進めてきた。しかし、豊凶という特性のため台木用種子の安定確保が困難である。その上、未保存個体の多くが林道の奥深くにあって採穂は落葉後かつ降雪前の11月中旬に限られる。しかし、春まで4ヶ月以上の穂の長期保存は技術的に容易ではなく、台木を温室で芽吹かせればその短縮が可能だが、その稼働には多大なコストがかかり標準的な手法とは言い難い。
そこで、本研究では、上記の諸問題を解消するため、9月から11月までの降雪前でも材料の確保が可能なブナ冬芽を用い、組織培養による増殖を試みた。冬芽は70%エタノール、1%次亜塩素酸ナトリウム溶液で激しく撹拌滅菌後、クリーンベンチ内で滅菌水でよく洗浄し、キムタオル上で芽鱗を剥ぎ、27℃、16hr日長で培養した。1/2 WPM、0.2%gelrite培地を用い、IBAとBAPの組み合わせで多芽体の増殖に良好な条件が得られた。シュートは約1ヶ月ごとに新鮮な培地にさし木移植することにより、少なくとも3年以上、成長状態を維持している。さらに、この増殖培地により濃度の高いIBAを添加することによって発根が誘導され、植物体の増殖に成功した。この技術により、ブナ苗木の安定的生産・供給、および成長・形質の優れたブナクローンの早期増殖保存への応用が期待される。