抄録
植物は、器官を切除して培養することや、分化全能性をひきだすことが容易であることから、いかにも各器官、組織、細胞が自律分散的に生きているように見える。しかし、中枢神経系を持つ動物のような中央管理型の生命形態ではないにもかかわらず、各器官(細胞)の間では確実に情報のやりとりを行っていて、個体としての統一性を保ち、複雑な体を形作ることができる。植物における形態形成機構の基本原理を解明する上で、私は空間認識機構の解析は大きな命題となると考え、細胞間情報伝達機構の全体的な理解を得るために、CLAVATA (CLV)シグナル伝達系を材料系として利用している。シロイヌナズナではCLEファミリーに属するCLV3はペプチドリガンドとして、CLV1及びCLV2がその受容体として機能することが示唆されていた。私たちは、CLV3がペプチドとして機能することを示し、合成ペプチドが植物体内で機能的であることを示した。この合成ペプチドを用いて、下流因子の探索を行っている。解析の結果、SOL2がCLV2とヘテロダイマーを形成し、CLV1に続く第二の受容体として機能すること、第三の受容体としてRPK2が機能することを明らかにした。また、リン酸化がCLV3シグナル伝達系において重要な機能を果たすことも示した。今後、CLV3シグナル伝達系の全体像を解明し、細胞間情報伝達機構における全体的理解に近づけたいと考えている。