抄録
種子形成により一旦中断した高等植物の発生は、種々の環境条件に依存しながら発芽という形で再開される。発芽を境にそこで働く遺伝子プログラムは劇的に変化する。この遺伝子プログラムの変更には、種子を特徴づける遺伝子の発現停止と、胚発生過程で抑制されていた発芽後成長遺伝子プログラムの始動という2つの要素が含まれる。シロイヌナズナの種子成熟の司令塔とも呼ばれるLEC(LEAFY COTYLEDON)因子群(FUS3、LEC1およびLEC2)の変異体は、種子成熟を特徴づける事象に広範な影響を及ぼす一方、子葉の本葉化や種子成熟過程での茎頂および根端メリステムの活性化などのヘテロクロニックな性質を示す。これら変異体のトランスクリプトーム解析を行ったところ、変異体の未熟胚では子葉・葉形質関連遺伝子のみならず、幼植物で発現する広範な遺伝子の発現が顕著に増加していた。このような発芽後成長プログラムの異時発現はハート胚以前に始まることなどから、発芽後成長プログラムは、胚発生あるいは種子形成過程においてLEC遺伝子群の働きにより積極的に抑制されていることが示唆される。したがって、このような抑制メカニズムの解明は休眠・発芽メカニズムの理解にも直結すると思われる。これらの解析や種々のトランスクリプトームデータの解析をもとに、遺伝子プログラムの変更という視点から種子の休眠と発芽について考察したい。