抄録
降雨などにより収穫前に発芽する穂発芽は収穫物の品質を大きく損なうことから作物の改良にとって重要な課題であり、強い種子休眠性を付与することが穂発芽を防ぐ上で有効である。種子休眠性は複数の遺伝子のより制御される量的形質である。我々は種子休眠の制御機構を理解するため量的形質遺伝子(QTL)の単離に取り組んでいる。これまでにKasalathから5つのQTLを検出し報告してきたが、近年はさらに日本稲/日本稲、日本稲/インド稲、さらには日本稲/野生イネの交配により作られた染色体断片置換系統を利用することによりハバタキやNonaBokra、そして、野生イネからもQTLを検出している。その一つであるSdr4に関しては単離に成功し、報告してきた。また、ハバタキの染色体断片置換系統から見出された穂発芽耐性QTLであるSdr7は第1染色体に座乗し、4600の大規模集団を用いたマッピングの結果、その候補領域を24.5kbに狭めることに成功している。この領域に相当するハバタキゲノム配列を解読した結果、当該領域にはハバタキに特有の配列が存在し、その配列はシロイヌナズナで報告されている種子休眠性に係わる遺伝子の同祖体であった。
今回、自然変異を利用した種子休眠性の遺伝学的な解剖と遺伝子単離・機能解析により種子休眠ネットワークを明らかにする試みについてご紹介したい。