抄録
葉緑体の電子伝達経路に2種類あることは半世紀前から知られていた。リニア電子伝達は,PSII-シトクロムbf複合体-PSI-NADPHと電子が移動するお馴染みのものだが,一方のサイクリック電子伝達(CEF)は,PSI を出た電子がどの分子を経由するかが明らかでなく謎に満ちていた.私たちは,緑藻クラミドモナスを用いてPSIとPSIIのバランス機構(ステート遷移)に注目し,生化学的な解析からその分子基盤を明らかにしてきた.これまでに,2つの光化学系のバランスがPSII側に崩れた状態では,それを補正するためにPSIIのための集光タンパク質をPSIに“融通”し,光化学系Iの集光能力が増強されることがわかってきた(この状態をステート2と呼ぶ).興味深いことに,ステート2は,CEFの活性が高いことでも知られる.そこで,今回私たちはステート2状態のクラミドモナス細胞から,光化学系Iを含む無傷の巨大複合体を分離した。解析の結果,この複合体はPSI ばかりでなく,シトクロムbf複合体,FNRなどが集合してできた,分子量150万の超・超複合体であることがわかった。この超・超複合体に光を当てると,電子はPSI から隣のシトクロムbf複合体へと移動し,またPSIへと戻ってくることが確認され,CEFはLEFの部品を再配置した超・超複合体上で行われていることが明らかとなった.