抄録
珪藻類は地球上の一次生産の約20%を担い、地球上の炭素循環や気象変動に多大な影響を与えている。また、油滴を細胞内に貯蔵し、DHA等の有用生理活性物質も産生する。珪酸質の被殻は工業原料としても重要である。産業的利用のためには、珪藻類を自然光の元で、実用的な速度で増殖させる必要がある。産業的活用のためにも、珪藻類が自然環境に与える影響を理解するためにも、珪藻類の光合成機構の解明が重要である。
本講演では、中心目珪藻Chaetoceros gracilisと羽状目珪藻Phaeodactylum tricornutumの光強度変化への応答機構を紹介する。クロロフィルaに対する補助色素の割合は増殖光強度に関わらずほぼ一定で、アンテナサイズが大きいために光強度変化による補助色素の変化が検知できないと見ることができた。キサントフィルサイクル色素の含量は、増殖光強度が高いほど大きくなり、強光下での光防御機構の強化が示された。77Kでの蛍光スペクトルによると、光化学系IとIIの量比は増殖光強度によって大きく変化し、C. gracilisでは増殖光強度が高いと大きくなったが、P. tricornutumでは逆に小さくなった。珪藻類ではステート遷移は知られていないので、ステート遷移とは異なる光合成系の励起バランス調節機構があると考えられる。これらに基づき、珪藻類の光強度馴化戦略について考察する。