2026 年 66 巻 2 号 p. 81-92
本原稿では,治療においてトラウマとアタッチメント,メンタライゼーションを念頭において関わっていくことの有用性を,事例のアセスメント場面と治療経過を題材にして論じる.筆者が日頃患者理解のために用いている臨床的レンズ「三層トポロジーモデル」に,Luytenらによるストレス・報酬・メンタライジングモデルを援用した生物学的理解——①ストレス系(トラウマ記憶),②愛着報酬系(自律神経系),③メンタライズ系(関係と意味)を援用し紹介する.このモデルは発達性トラウマに対応する臨床の中で発展してきたものであるが,従来のBio-Psycho-Socialモデルと相同でありながら,各層への神経生物学的な介入指針を与える点において実践的有用性が付加されている.最初の事例は当初「いじめによる適応障害」から「うつ病」という診断変遷をして1年間治療されたが改善しなかった14歳男児のアセスメント場面で,発達性トラウマを同定し介入し,学校の態度で生じた関係性トラウマを認識したことで,治療的展開が開始した.二事例目は複合的トラウマを抱えた女児で,TF-CBT・MBT・CRMを段階的に組み合わせた治療により回復した.「この子に何が問題か」ではなく「この子に何が起きたか/何が起きているか」を問う視点が,トラウマインフォームドな臨床の出発点である.