小児の精神と神経
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Print ISSN : 0559-9040
最新号
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第131回学会特集号「神経発達症への心理・教育的アセスメントの新たな活用③」
特別講演2
  • 八木 淳子
    2025 年65 巻3 号 p. 175-183
    発行日: 2025/10/01
    公開日: 2025/10/01
    ジャーナル 認証あり

    世界中を不安と混乱の渦に巻き込んだ新型コロナウイルス感染症は,2023年5月にWHOが国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態ではないと宣言して収束とされたが,Long COVIDの問題やメンタルヘルスへの長期的影響については未知数である.こども虐待や不登校,いじめ,こどもの自殺の増加などの事象は,コロナ禍という「災厄」をきっかけとして,個人と社会が抱える脆弱性と問題が顕在化して噴出した結果とも考えられる.ポストコロナは,これらの問題による影響を引き受けていく時代である.こどもは発達する存在であり,阻害された発達の軌道に戻るためのサポートを必要としている.災禍での「こころの問題」とその影響は渦中のみならずむしろ「遅れて出てくる」ことを踏まえ,東日本大震災などの過去の災禍の知見を援用することにより,発達精神病理学的視点でトラウマインフォームドケアを徹底し,個々のニーズに応じたみたてと対応・介入を重層的に実践していくことが求められる.

第133回学会特集号「いきる みつける つながる 発達支援。いまから ここから①」
教育講演
倫理委員会・倫理指針ワーキンググループ企画講演
  • 飯島 祥彦
    2025 年65 巻3 号 p. 192-195
    発行日: 2025/10/01
    公開日: 2025/10/01
    ジャーナル 認証あり

    医療に携わる者には職務を遂行するにあたって遵守するべき職業倫理である医療倫理が課されている.医療倫理は,場所や時によりその内容は異なり,また各医療人により考え方が異なることもある.そのような医療倫理は,古くは「ヒポクラテスの誓い」に始まり,以降多くの多様な倫理綱領が制定され言語化されてきた.我々医療に携わる者は,変遷する医療倫理を常に学習する必要がある.医療者が,患者を対象として研究,いわゆる臨床研究を行う場合には別途配慮が必要である.なぜなら,診療の目的は「患者の福利」の実現であるのに対し,研究は「研究成果の最大化」を目指すものであり,研究目的達成のために患者を害するリスクが常にあるためである.そのため,今日では国が法令や倫理指針を規定して,研究者は法令や指針を遵守して研究を実施しなければならなくなった.さらに,精神神経医学に係る研究については,研究参加における代諾の取得の問題など,特有の課題もある.本稿では,医療者に課される医療倫理について検討し,小児精神神経疾患に関する臨床研究に携わる研究者が知っておくべき研究倫理の現状と問題点について皆様と一緒に検討を行う.

シンポジウム1
シンポジウム2
原著
  • 田中 尚樹, 長谷川 洋輔, 辻井 正次
    2025 年65 巻3 号 p. 227-238
    発行日: 2025/10/01
    公開日: 2025/10/01
    ジャーナル 認証あり

    本研究では,発達障害のある子どもや子育てに困難さを感じる子どもの保護者支援プログラムである「ペアレント・プログラム」(2015年度から2022年度に実施)に参加した保護者759名にアンケート調査(養育スタイル尺度または肯定的・否定的養育様式尺度,日本語版BDI-II, Strength and Difficult Questionnaire(SDQ))をプログラムの実施前と実施後に行った.そのうち子どもが12歳以下である393名を分析対象として効果検証をした.養育態度,抑うつ傾向,SDQの多動・不注意・友人関係の問題・向社会的な行動で有意な改善が見られた.また,プログラム実施前に否定的養育態度や抑うつ傾向の得点が高い人ほど変化量が大きかった.ペアレント・プログラムは,地域や支援者,子どもの年齢や診断の有無や種類に関わらず,養育態度や抑うつ傾向,(保護者から見た)子どもの情緒や行動の問題に対して有効であることが示唆され,子育て支援施策として保護者が安心して子育てができるように各自治体での普及が期待される.

実践報告
  • 小沢 浩, 北 洋輔, 井之上 寿美, 白井 育子, 福田 あゆみ, 塩田 睦記, 小沢 愉理
    2025 年65 巻3 号 p. 239-247
    発行日: 2025/10/01
    公開日: 2025/10/01
    ジャーナル 認証あり

    外来において,家庭環境と患児に対する評価,認識をアセスメントし,統合するために,生活環境採点法を考案し検討した.対象は小児神経外来を受診した68名の神経発達症児およびその母親であり,最も望ましい状態を100点として,現状の学校生活・家庭生活・自分自身に対する採点(自己採点)を子どもに求め,母親には対象児の採点予想を求めた.解析では,自己採点と採点予想の乖離を検討するとともに,対象児が100点と採点しなかった理由について分類を行った.結果は,全ての項目において,子ども自己採点に比して母親採点予想が有意に低かった.先行研究の結果を踏まえて,これは,母親が,不安定なメンタルヘルスによって,子どもを悲観的に捉えやすくなり,その結果として生じている可能性がある.生活環境採点法を用いることで,気持ちを言語化できない子どもと母親の心の問題を,数字として子どもと医師で共有することが可能となり,心理社会的治療としての環境調整の手がかりが得られると考えられた.

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