日本小児放射線学会雑誌
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症例報告
頭部造影CTが診断の一助となった結核性髄膜炎の1乳児例
安達 恵利子藤田 和俊中橋 達石立 誠人宮川 知士北見 欣一三山 佐保子井原 哲
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2017 年 33 巻 2 号 p. 144-148

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I  はじめに

我が国の小児結核患者は全体としては減少傾向にあるが,結核性髄膜炎や粟粒結核の患者数はほぼ横ばいである1,2).2006年までは小児の新規結核患者数は年間100例を超えていたが,2013年度は63例で,2014年度は49例と年々減少傾向である.小児の日常診療において結核を意識する機会は減っており,診断・治療が遅れ転帰が不良となる可能性も危惧される.小児科臨床医として重症結核に遭遇する機会は稀であるが,遭遇した場合に診断が遅れると特に乳幼児においては重症化するリスクがあるので,診療の際には常に注意が必要である.今回,BCG接種済みであったにも関わらず結核性髄膜炎に罹患し,画像所見が診断の一助となった1乳児例を経験したので報告する.

II  症例

患者:10か月,男児

主訴:不機嫌,活気不良

現病歴:入院1か月前より不機嫌であった.入院3日前より活気が低下し,啼泣が弱くなり,嘔吐が出現したため近医を受診し,経過観察となっていた.入院前日より視線が合わなくなったため同医を再診し,意識障害がみられたため,前医を経て当院へ搬送された.

既往歴・家族歴:結核患者との明らかな接触なし

予防接種歴:BCG(接種後にコッホ現象認めず)

身体所見:Glasgow Coma ScaleでE4V2M4と意識障害を認めた.周期性呼吸を認めたが,呼吸音は清で,心雑音はなく,腹部所見にも異常は認めなかった.

入院時血液検査・髄液検査(Table 1):好中球優位の白血球増多,CRP高値と炎症所見を認めた.髄液は単核球優位の細胞数増加,髄液糖/血糖比:0.45と低値で,蛋白の軽度上昇を認めた.

Table 1  入院時検査所見
血算 生化学 髄液検査
RBC 384 × 104/μl CRP 14.39 mg/dl 細胞数 33/3/μl
Ht 31.0% BUN 2.5 mg/dl  単核数 31/3/μl
Hb 10.2 g/dl Cre 0.13 mg/dl  多核数 2/3/μl
Plt 75.8 × 104/μl T-bil 0.4 mg/dl 蛋白 57.3 mg/dl
WBC 15,400/μl AST 42 U/l Cl 118 mEq/l
 Neu 82% ALT 23 U/l 65 mg/dl
 Lym 13% LDH 276 U/l LDH 14 U/l
 Mono 5% Na 134 mEq/l
K 4.1 mEq/l
Cl 100 mEq/l
Glu 142 mg/dl

入院時抗酸菌検査(Table 2):胃液では塗抹・培養検査で,髄液では培養検査で陽性であった.胃液において結核菌DNAのPCRで陽性であり,Mycobacterium tubecrosis complex(M. tubercrosis complex)が同定された.

Table 2  入院時抗酸菌検査
胃液 髄液
顕微鏡検査
蛍光法 2+
チールネルゼン 2+ 未検
ガフキー 5 未検
培養検査
液体培養 陽性 陽性
小川培地 陽性 未検
結核菌 PCR 陽性 陰性
同定菌 M. tuberuculosis
薬剤感受性
試験濃度(μg/ml) 感受性
KM20S
SM10S
INH0.2S
1S
EB2.5S
RFP40S
PZA100S
400S

*KM:カナマイシン,SM:ストレプトマイシン,INH:イソニアジド,EB:エタンブトール,RFP:リファンピシン,PZA:ピラジナミド

III  入院時画像所見

胸部単純X線(Fig. 1a)では,右肺の多発性浸潤影を認めた.

Fig. 1 

Chest images on admission

a: Chest radiograph shows consolidation shadows in the right upper and middle lobes.

b (transverse section), c (coronal reconstruction): CT shows thick-walled cavities in the right upper lobe. Also noted are lymphadenopathies in the paratracheal, subcarinal, and right hilar regions.

胸腹部造影CT(Fig. 1b, c)では,右上葉に厚い壁と空洞を伴う濃度上昇を認め,多数の二次小葉中心性の結節陰影を認めた.また傍気管・気管分岐下・両側肺門部のリンパ節腫大を認めた.腹部には特記すべき異常所見は認めなかった.頭部造影CT(Fig. 2a, b)では,脳実質内に多数のリング状造影効果を伴う結節病変を認め,特に左小脳半球に多く見られた.脳底部優位に髄膜の造影効果を認め,脳室拡大と脳室周囲の著明な間質性浮腫を認めた.

以上の画像所見から結核性髄膜炎を強く疑った.

Fig. 2 

Brain contrast CT on admission (a: transverse section, b: coronalaxial reconstruction)

Noted is significant basilar meningeal enhancement. There are multiple ring-enhancing mass-like lesions in the brain parenchyma, particularly of the left cerebellar hemisphere. The lesions show significant mass effect with surrounding brain edema, resulting in obstructive hydrocephalus.

IV  入院後経過

特徴的な画像所見から結核性髄膜炎を強く疑い,結核に対する検査を直ちに提出した.胃酸の抗酸菌検査塗抹陽性であったことより,結核性髄膜炎と暫定診断した.入院同日よりイソニアジド,リファンピシン,ストレプトマイシン,エタンブトール,デキサメサゾンの治療を開始した.非交通性水頭症によると思われる意識障害を併発しており,同日に脳室ドレナージ術を施行した.小脳半球に多発する結核腫と,それに伴う脳浮腫が強く,周期性呼吸の悪化や無呼吸の出現が懸念されたため,気管挿管による人工呼吸管理を開始した.その後速やかに状態は改善し,入院4日目で人工呼吸管理を中止した.以後も明らかな意識障害やけいれん,呼吸障害を認めず経過したため,入院14日目に脳室ドレーンを抜去した.入院時に提出した髄液・胃液の培養からM. tuberculosis complexを認め,上記診断を確定した.脊椎造影MRI(Fig. 3)(入院2か月に施行)では頸胸椎接合部や上部胸椎レベルに造影効果を伴う多発性硬膜下肉芽腫を認めた.

入院1か月の頭部造影MRIでは多数の結核腫の残存を認めたが,血管の狭窄や閉塞は認めなかった.入院3か月の頭部造影CTにて結核腫は残存していたが,胸部単純CTでは浸潤影や空洞病変は改善しており,入院4か月で退院となった.

Fig. 3 

Spine contrast MRI (T1WI, sagittal section)

There are numerous subdural granulomas at the cervicothoracic junction and upper thoracic spinal level, as well as significant leptomeningeal enhancement.

V  考察

小児期の結核罹患数は低下傾向にある1,2).しかし,乳児で発症の危険性が高い粟粒結核や結核性髄膜炎などの重症結核の罹患数は横ばいで推移しており,少数ではあるが後を絶たない.

また,高松は患者数が減少した小児結核医療の抱える問題として,症例が少ないために各医療機関での経験数が少なく診療や対策のレベルを維持できないことを挙げている3).以前より結核性髄膜炎は診断が困難であることが報告されてきた.その理由として新実は,①初期症状の身体所見,一般臨床検査所見が非特異的であること,②項部硬直などの髄膜刺激徴候が欠落する頻度が高いこと,③一般髄液検査所見で無菌性髄膜炎との差異が認められないことを挙げている4).現在では稀となっている小児結核性髄膜炎を早期に診断・治療する事は以前にも増して困難である事が予想される.

結核性髄膜炎の病因としては,初期変化群形成後に脳や髄膜へ結核巣が散布され,上衣下結核巣がくも膜下腔へ進展・破裂し,結核菌体蛋白が過敏反応を引き起こすことによって生じると考えられている.特に脳底槽に顕著な炎症性変化を認め,それに伴い増殖性くも膜炎が生じ,隣接する脳神経や穿通枝周囲に線維性腫瘤の形成,血管炎による梗塞,交通性水頭症を引き起こすとされている.このような病因を背景に,画像では造影効果を有する脳底部結節性病変や,脳底部髄膜造影効果5)が特に顕著であり,特徴的であるとされている.2003年,近藤ら6)は,結核性髄膜炎乳幼児11例を対象に後方視的に病歴・検査所見を検討し,胸部造影CTにおいて全例で縦隔・肺門部リンパ節腫脹を認め,頭部造影CTでは脳底部髄膜造影効果が全例,水頭症が9例,脳梗塞が8例で認められ,頭部・胸部造影CTが補助的診断方法として有用である事を報告した.本症例においても,発病後初期には髄膜刺激徴候などの有意な所見を認めず,中枢神経症状が現れた時点でも血液検査や髄液検査では特異的な所見を認めなかった.しかし,頭部CT画像が結核性髄膜炎に特徴的な所見であった事が確定診断への大きな道しるべとなった.頭部MRIは結核性髄膜炎において初期変化をより鋭敏に捉えるとされるが,本症例では意識障害を認めていたため,長い検査時間を要するMRIではなく短時間で施行できるCTを優先した.

脳底部髄膜造影効果を示すことは,結核性髄膜炎に特徴的であるが,他の疾患でも認められる事がある.サルコイドーシス,髄芽腫などの脳腫瘍の播種,クリプトコッカス症やコクシジオイデス症などの真菌性髄膜炎などを鑑別診断として考慮していく必要がある7).今回の症例では,入院当日に施行したCTで脳底部髄膜造影効果を認めた事から,早期に結核性髄膜炎を強く疑うことができた.亜急性の経過,髄液単核球数の有意な上昇,髄液糖/血糖比0.5未満,胃液抗酸菌塗抹陽性などの臨床所見を合わせてきわめて早期に診断を確定し,治療を開始できた.

一般的に遷延する意識障害の乳児に対しては,頭部造影CTではなく単純CTが選択されることが多い.しかし,頭部単純CTでは脳底部髄膜炎が診断できずに,誤って正常と判断してしまう可能性がある.そのため意識障害の原因が単純CTで特定できず,縦隔リンパ節腫大を伴う肺浸潤影などを合併する場合には,速やかに頭部造影CTを施行することが診断に有用であると考えられた.

VI  おわりに

小児一般診療の場面において,頭部造影CTにて脳底部髄膜造影効果を認めた場合には,結核性髄膜炎を念頭に置く事が小児臨床医に求められる.

謝辞

ご校閲いただきました都立小児総合医療センター放射線科河野達夫先生に深謝致します.

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