2017 年 33 巻 2 号 p. 51-59
小児の骨折の診断は難しい.例えばFig. 1のような分娩外傷による骨折,つまり骨幹部骨折で偏位が明らかなものであれば診断は容易であるが,そうではない骨折が大部分であるため,診断が難しいのである.本稿では小児特有の骨折,骨折の時間経過,アライメント,適切な撮影法をキーワードとして,骨折の典型例を解説していく.
分娩骨折
日齢3.左上腕骨骨幹部の骨折が明らかである(矢印).分娩骨折は上腕骨,大腿骨,鎖骨などに多い.
小児の骨は成人に比べて弾性に富むため,不全骨折と呼ばれる偏位の少ない骨折が特徴的である.これには若木骨折,隆起(竹節)骨折,塑性変形などが含まれている.隆起骨折のように皮質のわずかな膨隆を見抜くためには2方向の撮影が必要である(Fig. 2a, b).また,塑性変形は骨皮質は断裂せず,彎曲が生じるだけの骨傷である.塑性変形の診断は難しく,軽微な彎曲は健側と比較してもわかりにくいことがある(Fig. 3a, b).彎曲が強いとリモデリングが十分に行われず変形が残ることがある1,2).
右橈骨遠位骨幹端の隆起骨折
a:9歳.正面像.皮質にわずかに不連続な部分(矢印)があるがわかりにくい.
b:側面像.皮質の膨隆を認める.このように2方向で確認しなければ骨折の診断が難しいことがある.
右前腕骨の塑性変形
a:6歳.右前腕骨側面像(患側).橈骨および尺骨がゆるやかに上方に彎曲している(矢印).健側と比較しても,わずかな違いであるため慣れていなければ気付くのが難しいかもしれない.
b:左前腕骨側面像(健側).
また,小児の骨は成長過程にあるため,成長板(成長軟骨板)が存在することが特徴である.成長板は骨化が未熟な部分であり,靭帯や腱よりも弱い.このため関節に捻れの力が働くと,力学的に脆弱な成長板の損傷が起こる.なお,成長板損傷は思春期に伴う成長期(成長板が閉鎖する時期)に起こりやすく,上肢よりも下肢に多い1).
従って,成長板閉鎖前の小児では捻挫(靭帯損傷)よりも骨折が起こりやすいと考え,関節の損傷では常に骨折を合併していると考えて慎重に診断を進めていく必要がある.
成長板損傷はSalter-Harrisの分類が有名である1,3,4).
I型:10%程度とされる.成長板に一致した骨折(成長板の離開).大腿骨頭すべり症もI型に分類される(Fig. 4).
Salter-Harris I型(大腿骨頭すべり症)
11歳.股関節正面像.右大腿骨近位では,成長板が離開し(矢頭),大腿骨頭は後下方にすべっている(矢印).
II型:75%程度を占め,このタイプが最も多い.成長板と骨幹端の一部の骨折(Fig. 5).
Salter-Harris II型
14歳.左膝関節側面像.脛骨では成長板が離開しており(矢頭),骨幹端に骨折線を認める(矢印).
III型:10%程度.成長板と骨端核の骨折.若年性チロー骨折がこれに入る(Fig. 6).
Salter-Harris III型(若年性チロー骨折)
13歳.左下肢単純CT骨条件.左脛骨遠位の骨端核を通過する骨折線を認め(矢印),外側の成長板が離開している(矢頭).骨折直後で軟部組織が腫脹していると単純写真では骨折がわかりにくいこともある.脛骨遠位骨幹端のこのような骨折を若年性チロー骨折と呼ぶ.外旋力による前脛腓靭帯付着部の骨折である(この部分が成長板の閉鎖が最も遅い部分であり,外力に弱いため).
IV型:7%程度.成長板を通過して骨幹端から骨端核に至る骨折.上腕骨外顆骨折が含まれる(Fig. 7).
Salter-Harris IV型(上腕骨外顆骨折)
a:6歳.右肘関節正面像.上腕骨遠位骨幹端外側に小さな骨片を認める(矢印).
b:右肘関節側面像.側面像では上腕骨遠位骨幹端の骨片(矢印)を認めるとともに,上腕骨小頭(矢頭)が後方に転位していることがわかる.つまり骨端核にも骨折が生じていることになる.このように上腕骨外顆骨折は骨幹端から骨端核に至るSalter-Harris IV型骨折である.上腕骨外顆には前腕の伸筋群や肘筋が付着しているため,骨折が起こると骨片が転位しやすい.
c:左肘関節側面像(健側).左上腕骨小頭を上腕骨前縁の延長線(点線)が貫いている.伸展位でも屈曲位でもこれが上腕骨小頭の正しい位置である.
V型:成長板の圧潰.単独の骨外傷としては非常に稀であり,受傷時の単純X線写真での診断は困難である.成長板の早期閉鎖が起こるため,結果的に成長障害が生じることで診断される.
Fig. 8で分娩外傷による左上腕骨骨折の時間経過を示す.受傷から10日~2週間程度経過すると骨膜反応や仮骨が出現し,骨折線が不明瞭になる(Fig. 8b).受傷から3週間ほど経過すると仮骨増生がさらに進んで硬性仮骨となり,骨折部を取り巻く腫瘤様に見える(Fig. 8c).受傷後数か月間でリモデリングが進み,仮骨が吸収されて皮質が徐々に平滑になってくる(Fig. 8d, e)5).
単純X線写真での骨折の経過(分娩外傷)
a:日齢3.左上腕骨骨幹部の骨折を認める.
b:日齢12.骨折部周囲には,うっすらと仮骨(矢頭)が出現し骨折線が不明瞭となっている.
c:3週間後.辺縁明瞭な硬化像が骨折部を取り巻いている(矢頭).仮骨がさらに増大し骨化が進んだ状態であり,硬性仮骨と呼ばれる.
d:2か月後.骨折線は不明瞭となり,その周囲を覆っている仮骨の辺縁が滑らかになっている.
e:3か月後.リモデリングが進み,ほぼ正常な形態に自然矯正されている.
このように平均的には受傷後10日から2週間程度で骨膜反応と軟性仮骨がみられるようになる.従って初回撮影で所見がはっきりしなくても,臨床的に骨折が疑われる場合には骨折に準じた処置(安静・固定)を行い,2週間後に再撮影を行ってみることである.その際,小児の骨折は急性期を過ぎて治癒過程にある方が仮骨が現れて診断しやすくなることをあらかじめ患者にも十分に説明しておくべきだろう.
Fig. 9はよちよち歩き骨折の例である.よちよち歩き骨折は1~3歳ぐらいの歩行を開始したばかりの年齢の子供に起こりやすい不全骨折で,典型的には脛骨の下1/3のらせん骨折を指す.まだ歩行が不安定な時期なので,つまずいたり段差から落ちたりするため障害を受けやすい.明らかな外傷歴がないにも関わらず,急に跛行がみられる,歩きたがらなくなる等の主訴で受診することが多い6).偏位がほとんどない場合には,急性期の診断は困難であるが,1~2週間経過すれば骨膜反応の出現によって診断することができる.
よちよち歩き骨折
1歳.急に歩きたがらなくなったため,受診.
a:初診時.右脛骨・腓骨ともに異常は指摘できない.
b:1週間後.右脛骨遠位3分の1のところに骨膜反応が出現している(矢印).ここは典型的なよちよち歩き骨折の部位である.
また,小児では骨折部の仮骨増生が成人よりも顕著になるため,硬性仮骨が骨腫瘍と誤診されてしまうことがある.逆に,基礎疾患があったりネグレクトを受けた児で栄養状態が悪い場合には,骨折の治癒が遅延し骨膜反応や仮骨の出現が遅いこともあるので注意が必要である.
骨化していない軟骨は単純X線写真では写らない.このことが小児で骨折の診断が難しい理由のひとつである.特に肘関節においては軟骨の多い乳幼児の場合,骨折線を探すよりもアライメントをチェックすることが重要である.また,アライメントが重要な部位として,今回は頸椎の外傷についてもみていく.
1. 上腕骨顆上骨折小児の肘骨折の中で最も多く,5~10歳に多い.進展型と屈曲型があるが,大部分は上肢を過伸展した状態で転倒して生じる過伸展型である7).
遠位骨片の偏位が少ない場合は,上腕骨骨幹部と上腕骨小頭の位置関係を評価することが重要である.正常では,上腕骨前縁の延長線(anterior humeral line)が小頭のほぼ中央を通る(Fig. 10a).しかし,上腕骨顆上骨折が起こると上腕骨前縁の延長線は小頭の前方を通過してしまう(Fig. 10b)8).つまり,上腕骨小頭を含む遠位骨片が後方に偏位していることを示している.
上腕骨顆上骨折
a:右側(健側).上腕骨前縁の延長線(anterior humeral cortical line)(点線)が上腕骨小頭(矢印)のほぼ中央を通る.
b:左側(患側).上腕骨顆上骨折では上腕骨前縁の延長線(点線)は上腕骨小頭(矢印)の前方を通過してしまう.上腕骨小頭を含む遠位骨片が後上方に偏位していることを示している.また,上腕骨後方には脂肪層(周囲の軟部組織よりも透過性が亢進している部分;矢頭)が見える.これは関節液が貯留していることを示しており,骨折を疑う所見である.
上腕骨顆上骨折では,適切な処置が行われないと血行障害によるコンパートメント症候群が生じてVolkmann拘縮を引き起こすことがある9).また,固定中に整復位が失われると内反変形(内反肘)が起こる.
2. Monteggia骨折尺骨骨折および橈骨頭脱臼の組み合わせをMonteggia骨折と呼ぶ.尺骨骨折だけに気を取られていると,橈骨頭の脱臼を見逃してしまう.正常では肘関節の伸展・屈曲いずれの場合でも橈骨の長軸の延長線が上腕骨小頭を貫くが10,11),脱臼するとFig. 11のように橈骨の長軸延長線が小頭を貫かず,軸がずれてしまう.このように肘の外傷の診断では,アライメントのチェックが重要である.
Monteggia骨折(尺骨骨折と橈骨頭脱臼)
a:Monteggia骨折.尺骨骨幹部に骨折がある(矢印).これだけではなく,橈骨の長軸の延長線(点線)が上腕骨小頭(矢印)を通過していない.これは橈骨頭が脱臼していることを表している.
b:正常対照例.橈骨の長軸の延長線(点線)が上腕骨小頭(矢印)のほぼ中央を通るのが正しいアライメントである.
小児の脊椎骨折はまれではあるが,その中でも多いのは頸椎であり全体の5割近くを占める.外傷後の小児の頸椎の写真をみるときに,頸椎の上下の連続性だけを確認して終わりにしてはいないだろうか.実は小児では外傷によって環軸椎-後頭関節の不安定性(環軸椎不安定性)を生じることがあるので注意が必要である.小児は頭が大きいため,環軸椎-後頭関節がてこの支点となり頭蓋-頸椎接合靭帯群の断裂が起こりやすいのである12).
従って,頸椎を評価する際は椎体の配列だけではなく,後頭骨と環軸椎との関係にも留意する必要がある.環椎後頭関節不安定性の評価には,単純X線の側面像やCT矢状断像でWackenheim lineやHarris methodを用いる方法がある13,14).Wackenheim line は,斜台の後縁の延長線であり,これが歯突起先端に接していればアライメントは正常と判断する(Fig. 12a).この方法は正しい側面像が撮影されていれば,簡便である.Harris methodは,斜台の下端(basion)と歯突起との垂直距離(BDI),およびbasionと歯突起後縁の水平距離(BAI)がともに12 mm未満が正常としている(Fig. 12b).歯突起の骨化が未熟な年少児では成人よりもBDIがやや拡大するが,それでも正常範囲は12 mm未満である5).
環椎後頭関節不安定性の評価
a:Wackenheim line.正常では斜台の後縁の延長線(点線)が歯突起先端(丸印)に接する.
b:Harris method.PAL(posterior axial line):軸椎後縁の接線(点線),BDI(basion dens interval):basion(斜台下端)と歯突起との垂直距離(白矢印),BAI(basion axial interval):basionとPALとの距離(白抜矢印)とする.BDI,BAIがともに12 mm未満であれば不安定性はなく正常とする.
Fig. 13のように中間位ではWachkenheim lineは正常位置にあるが,前屈位でWachkenheim lineが歯突起を貫いてしまう場合には,環椎後頭関節不安定性があると考える.
環椎後頭関節の不安定性
a:10歳.中間位側面像.Wackenheim line(点線)は歯突起先端(丸印)に接しており,正常である.
b:前屈位側面像.Wackenheim line(点線)は歯突起先端(丸印)を貫いている.この例では,転倒後から頸部痛が続いており,環椎後頭関節に不安定性があると考える.
小児の斜頸の原因のひとつである.外傷だけではなく,感染(後咽頭間隙の膿瘍)や扁摘などでも生じる16).回旋固定の診断はCTが有用である.特に3D像を再構成することで環椎後頭関節の状態が詳細に評価することができる(Fig. 14).
環軸椎回旋固定(脱臼)
a:6歳.CTから再構成した3D像.左環椎後頭関節の間に隙間が生じており(矢印),環椎が右方にずれている.
b:下から見上げるように画像を作成すると,環椎(矢頭)が回旋している状態が把握しやすい.
乳幼児に虐待(特に身体的虐待)が疑われた場合,全身骨の単純X線撮影を行って骨折の有無を調べるべきである.しかし,先に述べたように,小児の骨折は偏位が少ないため診断が難しい.それに加えて,被虐待児に特異的とされる骨幹端損傷は,乳児の骨幹端の微小な骨片を見抜かなければならないため,高いクオリティの写真を撮ることが要求される.だが,人手の少ない夜間や救急診療の場では全身骨撮影は難しく,体の小さい乳児ではFig. 15のように全身を1枚の写真で撮影し,検査を終えてしまう施設も散見される.骨幹端損傷はFig. 16のような骨幹端の微小骨片として認められるため,全身を1枚におさめた写真では診断は困難である.このような不十分な検査で「骨折なし」と判断し,虐待が疑われる児を帰宅させてよいだろうか.虐待を疑う場合には,まずは患児を安全な場所に保護し,放射線技師が複数スタンバイしている日中に全身骨撮影を行うことが望ましい.
被虐待児の全身撮影
2か月.このように全身を1枚の写真でおさめてしまうと,骨幹端損傷のような軽微な骨折の診断は困難である.また,四肢骨が斜位となっており,アライメントの評価も難しい.
左大腿骨と脛骨の骨幹端損傷
8か月.大腿骨骨幹端の辺縁に小さな骨片を認める(矢印).強い揺さぶりによって生じた骨幹端損傷と考えられる.脛骨の骨幹端の周囲には薄い線状の骨片を認め(矢頭),これも骨幹端損傷である.このような軽微な所見を拾うためにも,全身骨を正しい肢位で撮影する必要がある.
また,X線検査では常に被ばく低減に努めることは大切であるが,目的に合った線量を照射しなければ適切な画像は得られない.骨折の診断を目的とした全身骨撮影では,手足も正しい肢位で撮影すべきである.むやみに撮影野を広げて骨が重なったり斜位になってしまうと,検査自体が無駄な被ばくとなることがある.
小児の骨折の特徴やその診断に関する注意点を,代表的な疾患例を挙げて解説した.今回提示した内容はほんの一部であり,骨傷の診断では他にも様々な所見や背景疾患の知識などが要求されることがある.本稿が少しでも骨傷の診断に取り組むきっかけとなれば幸いである.