2017 年 33 巻 2 号 p. 91-96
画像診断に用いる造影剤,特に静注にて用いる造影剤の安全性についての知識は最近大きく変化しており,もはや10年前の常識は通用しなくなっている.造影剤は診断のために使用される薬剤であって,治療目的に用いる薬剤と比較してもその安全性に格別の配慮が必要であることは当然であり,常に新たな知識をアップデートする必要がある.この項ではガドリニウム(Gd)造影剤の使用に絞って解説する.
現在静注で用いられる造影剤にはCTや血管造影などに用いるヨード造影剤(Iodine-based contrast agents),MRIに用いるGd造影剤(Gd-based contrast agents),超音波検査に用いるペルフルブタン(Perflubutane)の3種類がある.Gd造影剤はさらに細胞外液性造影剤と肝細胞特異性造影剤に分類され,またキレートの構造によって,直鎖型(linear chelate)と環状型(macrocyclic chelate)に分類される(Table 1).直鎖型Gd造影剤の使用はあとに述べる理由によって最近激減している.
一般名 | 製品名 | 略号 | 投与量(mmolGd/kg) | 投与量(ml/kg) | キレート構造 | 後発品 |
---|---|---|---|---|---|---|
細胞外液性 | ||||||
ガドペンテト酸メグルミン | マグネビスト | Gd-DTPA | 0.1 | 0.2 | 直鎖型 | あり |
ガドジアミド水和物 | オムニスキャン | Gd-DTPA-BMA | 0.1 | 0.2 | 直鎖型 | あり |
ガドテリドール | プロハンス | Gd-HP-DO3A | 0.1 | 0.2 | 環状型 | なし |
ガドテル酸メグルミン | マグネスコープ | Gd-DOTA | 0.1 | 0.2 | 環状型 | なし |
ガドブトロール | ガドビスト | Gd-BT-DO3A | 0.1 | 0.1 | 環状型 | なし |
肝特異性 | ||||||
ガドキセト酸ナトリウム | EOB・プリモビスト | Gd-EOB-DTPA | 0.025 | 0.1 | 直鎖型 | なし |
造影剤による副作用はTable 2のようにまとめられる1).特に注意すべき点は,Gd造影剤特有の副作用である腎性全身性線維症(Nephrogenic Systemic Fibrosis; NSF)に対する配慮が必要である一方,ヨード造影剤で発生する可能性のある造影剤腎症はGd造影剤では生じないという事実である.このことは,特に透析患者(残存腎機能のない患者)における造影剤選択に大きな影響を与える.
副作用の種類 | 急性(即時性) | 遅発性 | 超遅発性 | 造影剤腎症 |
---|---|---|---|---|
発症時期 | 1時間以内 | 1時間から1週間 | 数日から1週間以上 | 3日以内 |
ヨード | ○ | ○ | ○(甲状腺中毒) | ○ |
ガドリニウム | ○ | △ | ○(NSF) | × |
○:知られている
△:報告はある
×:知られていない
つまり,ヨード造影剤が腎機能障害患者にとって危険である理由はその腎毒性のためであり,透析に完全に依存している患者にヨード造影剤を使用することは差支えない.これに対し,Gd造影剤は透析によって速やかに排除することはできないので,あとに述べるNSFが発生する可能性があり,透析患者に使用することは好ましくないのである.
Gd造影剤による急性副作用についての考え方は,ヨード造影剤と基本的に同一であるが,一般にGd造影剤による急性副作用の発生頻度はヨード造影剤のそれよりもかなり低く,重度な急性副作用の発生頻度は0.001–0.01%程度とされる.
急性副作用の症状は実にさまざまであり,Table 3のようにまとめられている1).発症機序として,なんらかのアレルギーの関与が様々な間接的証拠によって示されているが,化学毒性によるものと考えられるものもある.その重症度もさまざまであり,ほとんど臨床的に問題とならないような軽度のものは日常的に観察される.ガドブトロールによる前向き研究では2),30,373件の造影MRI検査においてアレルギー性と考えられる副作用が96件(0.32%)発生しており,そのうち92例(95.8%)は軽度であり,3例(3.2%)が中等度,1例(1.0%)のみが重度に分類されている.重度のアレルギー性急性副作用の発生頻度はおおむね0.003%ということになる.また,この研究では15例(15.6%)が投与後30分以上たってから発症しており(この中には遅発性副作用に分類されるものも含まれると考えられる),検査終了後にMRI検査室を出てから発症する例もあることは記憶しておく必要がある.
重症度 | アレルギー様/過敏症 | 化学毒性 |
---|---|---|
軽度 | 軽度の蕁麻疹 軽度の掻痒感 紅斑 |
悪心/軽度の嘔吐 熱感/悪寒 不安感 ただちに回復する血管迷走神経反射 |
中等度 | 重度の蕁麻疹 軽度の気管支痙攣 顔面/喉頭浮腫 嘔吐 |
重度の嘔吐 血管迷走神経発作 |
重度 | 低血圧性ショック 呼吸停止 心停止 |
不整脈 痙攣 |
急性副作用の危険因子をTable 4に示す1).これら危険因子はいずれも問診で明らかとなる内容であり,これを怠ってはならない.危険因子が存在する場合は,代替検査の可能性に配慮し,また以前急性副作用を生じたGd造影剤の使用を避け,異なるGd造影剤を使用するよう勧められている1).このような対応には,急性副作用の少なくとも一部はアレルギー機序であるとの考察から,一定の合理性があると考えられる.
1.以前のGBCAを使用した検査で中等度以上の急性副作用があった |
2.気管支喘息がある |
3.治療を必要とする他のアレルギー疾患がある |
また,ステロイドの前投与も勧められているが,有効とするエビデンスがあるわけではない.実施する場合にはGd造影剤投与の充分前に投与する必要があり,直前の投与は無効と考えられているが,残念ながらいまだ直前静注を行っている施設が少なくない3).いくつかのプロトコールがあるが,プレドニゾロン30 mg(プレドニゾロン錠など),またはメチルプレドニゾロン32 mg(メドロール錠)を,造影剤投与の12時間前と2時間前に経口投与,という方法が最も簡便であろう1).当施設の経験では,危険因子を有する患者にステロイド前投薬を実施して,なおも急性副作用が生ずることはむしろまれであった4).このことはステロイド前投薬の有効性を直ちに示すものではないが,少なくとも危険因子があるが故にGd造影剤を絶対的禁忌とすることに妥当性はない.
投与後1時間から1週間の間に発生する副作用と定義され,薬疹に類似した皮膚反応が主である.最近までヨード造影剤に特有の副作用と考えられてきたが1),ガドブトロール投与後4–5時間してから皮疹で発症した遅発性副作用の症例が報告されており,パッチテストによって遅延型過敏反応(type IV)であったという5).重症化はまれと考えらえる.
腎機能障害をもつ患者,特に透析患者にGd造影剤が投与されると,数日以上経過してから四肢,特に下肢の皮膚発赤,腫脹,疼痛などが現れることがあり,腎性全身性線維症と呼ばれる.線維化によって次第に皮膚は肥厚・硬化し,進行すると横紋筋や腱に石灰化を生じることによって関節拘縮を生ずる.頭頸部を侵すことはないが,四肢の皮膚病変と関節拘縮は時に非常に重篤となり,患者のQOLは著しく低下する.皮膚の疼痛は慢性的であり,生涯残存する.一度発症すると治療方法は存在せず,予防するしかない.
NSFはその全ての報告が腎機能障害患者に生じており,正常腎機能患者における報告は皆無である.全世界で数千例の発症があると推定されるが,国内では20例以上の報告がある.危険因子をTable 5に示す1).ここで最も重要な点は,使用する造影剤によって危険性が著しく異なるという事実である.安定性の低いキレート,つまり直鎖型キレートGd造影剤の使用はNSF発生の危険を高める.発症頻度は明確でないが,腎機能障害患者に直鎖型キレートGd造影剤を投与された場合で5%程度と推定される.一方,安定性の高い環状型キレートGd造影剤によるNSFの報告はほとんどない.危険因子の有無にかかわらず,直鎖型キレートGd造影剤の使用を継続すべき理由はない.eGFR < 60 ml/min/1.73 m2の場合には特に直鎖型キレートGd造影剤の使用を避けるべきである1,6).ESUR Guideline1)では,小児においても直鎖型キレートGd造影剤を使用すべきではないことを明確にしている.
1.腎機能障害の存在 |
1)透析患者,特に腹膜透析 |
2)CKD4-5(eGFR < 30 ml/min/1.73 m2) |
3)急性腎不全 |
2.GBCAの投与 |
1)安定性の低いGBCAの投与 |
2)大量投与・多い累積投与量 |
また,大量投与・多い累積投与量も危険因子とされている点に留意する必要がある.わが国では大量投与は一般的でなく,欧米各国に比べてNSFの発症例が少なかった要因と考えられ,幸いであった7).ガドブトロールは,その投与量(0.1 ml/kg)が他の細胞外液性Gd造影剤の半分であり,誤って倍量投与とならないように注意する必要がある.
NSFの発生機序については不明な点も多いが,腎機能障害のためにGd造影剤の排泄が遅延し,体内でキレートから遊離したGdイオンが何らかの物質と結合し(リン酸Gd [GdPO4]を形成すると推定される),これに対する異物反応と考えられている.一種の重金属中毒ともいえる病態である.安定性の低いキレート,つまり直鎖型キレートGd造影剤の使用後にNSFの発生が多い事実はこの理論によってよく説明できる.
リン酸溶液(血清を模している)に塩化Gd(GdCl3:溶液中ではGdイオンとなり,キレートから遊離したGdを模している)を滴下すると,容易にリン酸Gdが生成し,これはほとんど水に不溶であるため,沈殿する様子を観察することができる(Fig. 1).また,ヒト血清にGd造影剤を添加し,15日間にわたって観察した実験では,最も安定性の低い直鎖型Gd造影剤であるガドジアミドは20%以上がキレートから遊離する一方,安定性の高い環状型Gd造影剤では,遊離はほとんど観察されない8).
リン酸溶液に塩化Gdを滴下した実験
リン酸溶液は血清を,塩化Gd(溶液中ではGdイオンとなる)はキレートから遊離したGdイオンを模している.生成したリン酸Gdはほとんど水に不溶であるため,沈殿する様子を観察することができる.NSFはこのリン酸Gdに対する異物反応と考えられている.
NSFについての知識は放射線医学分野ではすでに常識となっており,現在新たなNSF患者が発生する可能性はほとんどないだろう.しかしその後,腎機能障害がなくても体内にGdが残留するとの報告があり,再び衝撃を与えることとなった9–11).淡蒼球や小脳歯状核がT1強調画像(非造影)で高信号となる現象の原因としてGd造影剤の複数回の投与が関与していることが明らかとなったのである.この現象は当初直鎖型キレートGd造影剤の使用後に生ずると報告されたが,その後軽度ではあるが環状型キレートGd造影剤の使用後にも生じうると報告されている12).また,肝細胞特異性造影剤であるEOB・プリモビストの場合でも,投与回数が多いとわずかではあるが信号上昇が認められる13).
Gdは重金属であり,このような事実は極めて重大なことと言わねばならない.今のところ残留による臨床症状は報告されていないが,そもそもGd造影剤が種々の疾患を持つ患者に使用されることが多いことを考えれば,それら疾患による自他覚的所見に埋もれてしまっているだけかもしれない.
また,投与回数が多くなると淡蒼球や小脳歯状核のみならず,大脳皮質や黒質,赤核,四丘体,上小脳脚などにも高信号が観察される14,15).動物実験では,程度の差はあるが,脳のあらゆる部位からGdが検出され,腎機能障害がある場合,また環状型キレートGd造影剤よりも直鎖型キレートGd造影剤投与後に多いことが示されている16,17).Gd残留のメカニズムは現在のところ全く不明と言わざるを得ないが,歯状核の残留については電顕にて神経細胞核内にGdが存在する様子が観察されている18).培養神経細胞に対するGd造影剤の毒性は明確であるが19),神経細胞内のGd残留が臨床的にいかなる意義をもつのかという点についてはさらなる詳細な検討が必要である.さらに脳以外の全身臓器への残留が,むしろ脳内残留よりも多いとの報告がある17,20).脳以外への残留量も直鎖型キレートGd造影剤において明らかに多いが,これら残留の臨床的意義も全く不明である.
Gd造影剤は胎盤を容易に通過し,Gd残留は胎児臓器にも認められ,その残留量は環状型キレートGd造影剤よりも直鎖型キレートGd造影剤投与後に多い21).これが胎児の脳神経発達になんらかの影響を与えるであろうことは容易に想像されるが,私たちの実験では,妊娠中にGd造影剤を投与されたマウスから生まれた子マウスには,不安行動,運動協調性障害,触覚閾値の低下,記憶機能障害,筋力低下などが認められた22).このような影響は直鎖型キレートGd造影剤投与例に明確であるが,環状型キレートGd造影剤投与によっても軽度ではあるが認められた.
妊娠中,あるいは妊娠の可能性のある女性へのGd造影剤投与は,禁忌というのは現在のところ言い過ぎであろうが,その適応についてより慎重な態度が求められ,またやむを得ず投与する場合には環状型キレートGd造影剤を使用すべきである.
Gd造影剤を小児に投与する場合の基本的考え方は成人と同様である一方,使用量は年齢と体重を勘案して調整すべきであり,また腎機能をチェックする場合には,年齢に即した正常値を参照する必要がある.
また先にも述べたが,ESUR Guideline1)は小児に直鎖型キレートGd造影剤を使用すべきではないとしているが,これはNSFの発生を受けて追記されたものである.Gdの体内残留が報告された後の,小児における検討はいまだ断片的である.小児において,T1強調画像で観察可能な脳内残留は,環状型キレートGd造影剤投与の場合には認められなかったとの報告があるが23),生後間もないラットにGd造影剤を投与した実験では,直鎖型キレートGd造影剤投与例に皮膚の障害などが認められたという24).少なくとも新生児への投与は慎重であるべきであり,やむを得ず投与する場合には環状型キレートGd造影剤を使用すべきである.
Gd造影剤は,どうしても必要な場合に必要最小限の量を投与すべきものである.使用前の急性副作用危険因子,および腎機能のチェックは必須である.また,状況にかかわらず安定性の低い直鎖型Gd造影剤の使用を継続すべき理由はない.Gdの体内,特に脳内残留にいかなる臨床的問題があるのか,さらなる研究が必要である.しかし,Gd造影剤の妊娠またはその可能性のある女性や小児への使用は,決して禁忌ではないが,抑制的であるべきと考える.