日本小児放射線学会雑誌
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症例報告
出生時より呼吸器症状を繰り返し,胸部CTでtracheal bronchusが確認されたダウン症候群児の1例
北村 範子稲岡 努粕谷 秀輔中塚 智也石川 ルミ子玉置 一智舘野 昭彦岡田 進寺田 一志
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2019 年 35 巻 1 号 p. 37-40

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はじめに

ダウン症候群の出生頻度は1/600–800人とされ,先天性心疾患,消化器疾患などを合併しやすい.とくに心血管奇形は40–60%と最多である.また,呼吸器系の合併症もよく知られるが,気管形成異常は比較的少ない1,2).気管形成異常では上気道レベルでの異常が多く,舌根沈下,扁桃肥大,喉頭軟化症(laryngomalacia)などの報告があるが3),気管・気管支病変での報告は少ない.今回,我々は出生時より呼吸器症状を繰り返し,胸部CTでtracheal bronchusが確認されたダウン症候群児を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

症例

11か月男児,切迫早産に対し経過観察中であったが分娩抑制困難となり,在胎36週0日,人工破膜後30分で出生した.出生体重は2,344 g,新生児仮死は無かった.APGAR score(5分)は9点で,呼吸数は60–70回/分であった.出生直後より,多呼吸および低酸素血症(SpO2 65%)があり,酸素投与するもSpO2に改善はなく,当院NICUに緊急搬送となった.出生直後に胸部X線検査が施行された(Fig. 1).びまん性に透過性の低下があり,新生児一過性多呼吸が疑われ,経鼻的持続陽圧換気(nasal CPAP, FiO2: 0.23),アンピシリンナトリウムおよびゲンタマイシンナトリウム投与が開始された.血液生化学検査では,IgMの上昇はあるが,WBCおよびCRPの上昇は認めなかった.呼吸状態の改善が乏しいため,喉頭ファイバーや心エコーなど施行したが異常はなかった.日齢11に胸部CTが施行され,両側肺野に広範なすりガラス状変化と右肺下葉辺縁には小さな浸潤性変化を認めた(Fig. 2).右肺下葉の病変は軽度の気管支肺炎を疑ったが,喀痰培養で起因菌の同定はできなかった.クラミジア,ウレアプラズマ,マイコプラズマ,エンテロウイルスなどの新生児肺炎を疑い,ミノサイクリン塩酸塩,メロペネム水和物およびエリスロマイシンステアリン酸塩を投与した.その後呼吸状態は改善したが,胸部CTで両側肺野のすりガラス状変化は残存したため肺水腫と考えた.肺水腫も軽減し(不掲),日齢51で退院となった.出生時に外表奇形があり,G分染法で21-trisomyを認め,ダウン症候群と診断された.

Fig. 1 

出生時胸部単純X線写真(正面像)

胸郭はベル型,横隔膜は第9肋骨レベルで肺野ではびまん性の透過性低下を認める.心陰影の軽度拡大を認める.

Fig. 2 

日齢11胸部単純CT横断像(肺野条件,3.0 mm厚)

A:気管分岐部レベル,B:下葉レベル

両肺にびまん性のすりガラス状変化,右肺下葉辺縁には小さな浸潤性変化を認める.また,両側肺下葉背側優位にモザイク状の含気の不均一を認める.

退院後も発熱,鼻汁,咳嗽,喘鳴など気管支炎様症状を繰り返していた.月齢10頃より喘鳴が増悪し,月齢11に精査目的で,胸部CTが施行された.両側肺野の軽度のすりガラス状変化に加えて,右肺上葉気管支周囲に浸潤性変化を認めた(Fig. 3).横断像で右肺上葉気管支が気管より直接分岐しているのが確認された.さらに冠状断像を作成することでより視覚的に解剖がわかりやすかった.ほかに右上葉気管支はなく,tracheal bronchus(転位型)と診断された.両側肺野の軽度のすりガラス状変化に著変なく,肺水腫と考えられた.心エコー検査では異常はなかった.対症療法が選択され,経過観察中である.

Fig. 3 

胸部単純CT(肺野条件,3.0 mm厚)

A:横断像(気管分岐部レベル),B,C:冠状断再構成像

両肺の含気はモザイク状で右上葉気管支周囲に浸潤性変化を認める.右上葉気管支は気管より直接分岐し,tracheal bronchus(転位型)である(矢印).

考察

小児の長引く繰り返す肺炎では何らかの器質的疾患を考える必要がある.反復する肺炎には2つの要因がある.1)気管支以下での閉塞や構造異常など局所的異常により同一肺葉内で肺炎を生じる.2)気管,主気管支レベルの閉塞,全身性または両肺の異常により同時に複数の肺葉に肺炎を生じる,あるいは時期により異なる部位に肺炎を生じる.このうち本症例はtracheal bronchusを伴うダウン症候群児で1)に当たると考える.

正常児と比較しダウン症候群に気管形成異常の頻度が高いことが知られている13).Bertrandらによる呼吸器症状のあるダウン症候群児での気管支鏡による検討では,laryngomalacia(50%),tracheomalacia(33%),tracheal bronchus(21%),bronchomalacia(21%),abnormal segmental bronchial branching(29%)の発生がダウン症候群児において有意に高かったとしている1).また,尾藤らの検討によると気管支分岐異常を伴った患児におけるダウン症候群は6%(3/50例)であり,一方ダウン症候群における気管支分岐異常は15%(3/20例)と報告している3).ダウン症候群児での繰り返す呼吸器症状では,先天性心疾患,肺水腫に加えて,気管形成異常も考慮する必要があると考えられる.

Tracheal bronchusは上葉に分布する気管支が気管または主気管支から直接分岐する異常である.とくにS1に分布することが多く,右側に多い.その形態から過剰型(supernumerary type)と転位型(displaced type)との2つに分けられている.過剰型は正常の上葉気管支があるのに加えて気管から分岐する気管支を認める.一方転位型は上葉気管支が気管から直接分岐し,それが分布する領域に相当する上葉気管支がない4,5).転位型が多い.本症例は,気管から分岐する気管支以外に右上葉に向かう気管支は認められず,転位型と診断された.ダウン症候群と気管形成異常との関連性は以前より知られているが,検討した報告は少ない.Tracheal bronchusの発生頻度はダウン症候群において通常の約10倍高く,他の気管形成異常の発生頻度と比較しても非常に高い.したがって,tracheal bronchusをダウン症候群に特徴的な気管形成異常のひとつとする考えもある1).Tracheal bronchusは多くは無症状であるが,無気肺,気胸,反復性肺炎,慢性気管支炎の原因になる.また人工呼吸器管理での原因不明の低酸素血症の原因となることも知られている6)

Tracheal bronchusは本症例のように乳児期,特に横になっている時期では呼吸器症状の原因としても重要である.ダウン症候群では肺自体の発達が悪いことが知られており,肺と気管が連動して発達することを考えると,気管の発達に影響が出ることは不思議ではない1).またダウン症候群では解剖学的変異による喀出障害,先天性心疾患,反応性気道疾患を背景として症状が重くなる傾向にある.さらにダウン症候群では肺高血圧,気圧などに伴う肺水腫が高頻度に見られることも報告されている7,8).ダウン症では肺内血管網が幼弱であることが知られており,肺水腫を起こしやすいとされる7,8).今回の症例も出生直後から一貫して,最外層の胸膜下がスペアされるようなびまん性のすりガラス状変化が認められ,肺水腫を疑った.

近年,multidetector CT(MDCT)の普及により,気管・気管支の3次元的で詳細な評価が可能となっている.MDCTでは短時間での高分解能な画像が撮像可能であり,動きによるアーチファクトも少なく,小児でもその有用性が報告されている9,10).低線量での撮像も検討されている9).Tracheal bronchusの出現頻度は気管支造影や気管支鏡による検討では0.25–4%程度とされるが,本邦でのMDCTによる検討では約0.64%と報告されている11).本症例の初回CTではretrospectiveに観察するとtracheal bronchusを確認できるが,肺野の変化が重なっていたこと,対象物が小さく細かったことからtracheal bronchusと認識できずに肺野のすりガラス変化および浸潤性変化の指摘に留まった.ただし,thin sliceのデータは残っていないため,thin sliceがあればtracheal bronchusが確認できたかどうかは不明である.繰り返す呼吸器症状に対する精査で施行された月齢11での胸部CTでは対象物も大きくなりtracheal bronchusを指摘できた.また,冠状断像を作成し,3次元的な評価が気管・気管支の観察に有用であった.

結論

出生時より呼吸器症状を繰り返すダウン症候群児の胸部CTでtracheal bronchusが確認され,呼吸器症状の一因と考えられた.ダウン症候群児の繰り返す呼吸器症状では気管形成異常も考慮する必要がある.胸部CTでは対象物が小さく細いこともあり,気管・気管支の注意深い観察が重要と考えられた.また,冠状断像など再構成像を用いた3次元的な気管・気管支の詳細な評価が有用であることが再確認された.

 

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文献
 
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