2021 年 37 巻 1 号 p. 85-89
今回,我々は特徴的画像所見を呈した卵管捻転の症例を経験した.症例は11歳,女児.主訴は左下腹部痛.5日前から間欠的に左下腹部痛を認めた.左下腹部には鶏卵大の腫瘤を触知し,腹部超音波では骨盤内に水腫状に拡張した管状構造を認め卵巣由来の嚢胞性病変,傍卵巣嚢胞などが鑑別に挙げられた.同日行った骨盤部非造影MRIでは,両側の正常卵巣が確認できたが,左卵巣近傍にT1強調像で低信号,T2強調像で高信号の拡張した管状構造が認められ卵管水腫が疑われた.その後も腹痛は消失しないため,再度画像を再検討すると水腫状の管状構造の両端が収束し,捻れていく構造が確認されwhirlpool signと考えられた.この所見から,卵管捻転が強く疑われた.腹腔鏡で左卵管捻転を確認し,壊死に陥った卵管を切除した.卵管捻転は小児では稀な疾患で,その術前診断は困難なため治療が遅れる.自験例は術前に鑑別疾患の1つとして示され緊急手術を行ったが,卵管を温存することはできなかった.
We report a case of fallopian tube torsion with specific imaging findings. An 11-year-old female presented with a chief complaint of lower left abdominal pain. She had experienced intermittent lower left abdominal pain for 5 days prior to presentation. An egg-sized mass was palpable in the lower left abdomen, and ultrasound revealed a tubular structure in the pelvis. A paraovarian cyst and cystadenoma were considered in the differential diagnosis. Plain magnetic resonance imaging (MRI) of the abdomen performed on the same day revealed normal ovaries but dilated luminal structures with low T1 and high T2 signals to the left of the uterus, suggesting a hydrosalpinx. Because the abdominal pain did not resolve, we reviewed the MRI, as whirlpool signs were pointed out. Torsion of the fallopian tube was strongly suspected. This was confirmed on laparoscopic surgery, and a necrotic fallopian tube was resected. Tubal torsion is a rare disease in children, and pre-operative diagnosis is difficult, often resulting in delayed treatment. Although one of the pre-operative differential diagnoses for this patient was accurate and urgent surgery was performed, the fallopian tube could not be preserved.
卵管捻転(以下,本症)は1/150万人程度の発症で稀な病態であり,小児では卵管水腫などの先天奇形から続発することが多いとされる1).そのため本症は腹痛の稀な原因となり,急性もしくは慢性の非特異的な腹痛を呈する2).術前診断には標準的な画像検査が行われるが,ほとんどの患者において確定診断は手術によって得られることになる1).今回,我々は下腹部痛と骨盤内嚢胞性病変を呈し,その鑑別に行った磁気共鳴画像(magnetic resonance imaging; MRI)から本症の術前診断が得られた11歳女児を経験した.小児婦人科系疾患による急性腹症の画像診断について考察する.
患者:11歳,女児.
主訴:左下腹部痛.
現病歴:受診5日前から間欠的に左下腹部痛を自覚し,改善がないため夜間に当院小児科を受診した.2日間排便がなく腹部単純X線写真で便秘症と診断され,浣腸で多量の排便があり,腹痛は改善したため帰宅した.同日朝に左下腹部痛を再び訴え当院小児科を再受診した.
家族歴・既往歴:特記事項なし.
入院時現症:身長158 cm,体重44 kg,体温37.9°C,脈拍86/分,血圧127/71 mmHgと微熱を認めたが,歩行は可能であり全身状態は良好であった.初潮は認めず,臨床症状として嘔気や嘔吐,下痢や便秘はなかった.腹部触診では左側腹部に鶏卵大の弾性硬腫瘤を触知した.左側腹部から下腹部にかけて軽度の自発痛と圧痛を認めたが,腹膜刺激症状はなかった.消化器症状は乏しかったため,婦人科系疾患を鑑別すべく検査を進めた.
来院時血液検査:白血球数は6,700/μl,CRPは<0.03 mg/dlと炎症反応の上昇は認めず,Hb値は13.3 g/dlで貧血も認めなかった.CKは53 U/L,腫瘍マーカーは正常で,尿検査も白血球の増多は認めなかった.
画像所見:腹部単純X線写真では明らかな異常所見は指摘できず,腹部超音波で,骨盤内に63 × 82 × 44 mm大の石灰化を伴わない水腫状に拡張した管状構造を認めた.卵巣由来の嚢胞性病変,傍卵巣嚢胞などが鑑別に挙げられた(Fig. 1).より診断を確定するために同日腹部単純MRIを施行すると,両側の正常卵巣が確認できたが,子宮左側にT1強調像で低信号(Fig. 2a)・T2強調像で高信号(Fig. 2b)の拡張した管腔構造を認めた.
骨盤部MRI所見
T1強調横断像で低信号(a),T2強調横断像で高信号(b)を呈する拡張した管腔構造を認める(矢印).(c)T2強調冠状断像:拡張した管腔構造の両端が収束し,基部でwhirlpool sign(矢印)を認め,卵管捻転と診断.
骨盤部超音波(横断像)
骨盤内に63 × 82 × 44mm大の石灰化を伴わない水腫状に拡張した管状構造を認める(矢印).
入院後の臨床経過:上記所見より卵管水腫を疑ったが,腹痛は改善していたため経過観察入院の方針とした.入院2日後も軽度の腹痛は持続したことから,画像を再検討した.その結果,拡張した管状構造の基部に認めたwhirlpool signから(Fig. 2c)卵管捻転が強く疑われ,緊急手術を腹腔鏡で行った.
手術所見:臍部正中より11 mmカメラポートを挿入し腹腔内を観察すると,左下腹部に暗黒色の骨盤内腫瘤と血性の腹水を少量認めた.右側腹部と下腹部正中に5 mm操作用ポートを追加し腫瘤を観察すると,腫大した左卵管を認め,卵管は膨大部を軸に2回転半捻転していた(Fig. 3).両側卵巣,子宮は正常であった.左腸骨窩の生理的癒着を剥離し,左卵管の捻転を解除したが,血流再開を認めず左卵管を切除した.術後1日目より経口摂取を開始し,術後4日目で退院となった.
手術所見
(a)左卵管捻転像:腫大した卵管は暗黒色を呈し,卵管膨大部を軸に2回転半捻転していた(黒矢印).左卵巣,対側付属器は異常なく,血性腹水を70 ml認めた.(b)左卵管捻転解除後:左卵管の捻転を解除し,捻転基部を確認した(白矢印).5分経過を待ったが血流再開は認めなかった(黒矢印).
摘出臓器の病理所見:出血と鬱血を伴う卵管組織でほとんどが壊死に陥っていた(Fig. 4).
摘出病理組織標本
嚢胞の内腔は円柱上皮細胞に覆われ,卵管由来に矛盾しない.
本症は思春期女子の腹痛の原因として挙げられるべき疾患であるが,稀な疾患で,経験がないと鑑別から漏れることがあり,術前の画像検査で確定診断に至ることは難しくなる3).自験例はまさにその典型で,MRI検査当日は卵管水腫と判断し,後日,放射線診断医からwhirlpool signの指摘を受け緊急手術に至ったという教訓的な症例であった.
本症は,卵巣捻転に併発することもあるが,自験例のような卵管のみの捻転は1/150万人と稀な病態である.性成熟期の女性に発症することが多く,思春期の女児の報告は稀である.医学中央雑誌にて「卵管捻転 小児」で検索したものと引用文献から検索したものを合わせ,本邦では(自験例含む)42例の小児卵管捻転症例の原著論文および症例報告が確認された4–12).なお,対象年齢は15歳以下の小児とし,2000年以降の報告である.
本症の原因は,内因性,外因性に分けられる.前者は先天的な卵管の解剖学的異常や卵管水腫などが挙げられる.後者は卵巣もしくは傍卵巣・傍卵管腫瘤や妊娠によるもの,外傷,骨盤内の炎症に伴うものが報告されている13,14).これらの中で卵管水腫が原因であることが最も多く,本症例でもそれにより卵管捻転をきたした可能性が考えられた.
症状は腹痛と嘔気・嘔吐・発熱などの随伴症状伴うが非特異的であり,虫垂炎等の消化器疾患との鑑別を要する.そのためしばしば診断が遅れ,術前診断に至らないまま手術が施行され,手術時に診断が確定されることが多い4,13).
治療は卵管の捻転解除が基本だが,診断が遅れ卵管を切除せざるを得ないことがほとんどで4),卵管が温存できた症例は既報の42例中わずか2例に止まった4,14).なお,卵巣捻転では一般的に発症後36時間がgolden timeとされるが4),本症に関しては,症例数が少ないことからその時間は明らかにされていない.しかし妊孕性の温存のためには,早急な診断と手術介入が必要なのは言うまでもない4).
そのため,女児の急性腹症の画像検索は重要で,婦人科系疾患の鑑別には経腹超音波,腹部造影コンピュータ断層撮影(computed tomography; CT),骨盤部MRIが行われる.本症の画像診断は,超音波検査で血流を有する正常卵巣とは別に,骨盤内に限局的に拡張した管状構造が確認されると本症を疑う第一歩となる.拡張した管状構造の両端が収束し,ねじれていく様子(whirlpool sign)を認めると疑いは強くなる15).超音波は被ばくのない検査であるが,体表からの距離,腹壁の厚みや腸管ガスの影響が出やすいことから,超音波のみで診断される本症は少ない.CTは組織分解能が低く,特に小児では臓器間の脂肪が少ないため,水腫状に拡張した管腔構造の由来臓器を同定することは困難になりがちである.それらに比べてMRIでは,被ばくがない上に組織分解能も高い.超音波と異なり他臓器の影響を受けにくいため,正常卵巣や付属器近傍の嚢胞・拡張した管状構造,whirlpool signを確認しやすい.MRIは,本症のみならず骨盤内病変の評価に優れた検査と言え16),小児においても超音波で婦人科系疾患が疑われたら,さらなる精査として可及的速やかに行うべきである.実際自験例ではMRIが確定診断に有用であったが,既報によると本症のMRIによる診断率はわずか27.8%(5/18例)であった.3例は捻転が確認されているものの(1例は自験例),2例は正常卵巣と卵管拡張から本症の診断が得られていた.MRIで注意すべき点は,動きに弱い検査であることと空間分解能がやや悪いという点である.可能であれば,近接する消化管の蠕動からのアーチファクトを低減させるために,鎮痙薬を利用して行うと良い.また,低い空間分解能を補うために,コントラストの良いT2強調像でgapless撮像を多方向断面で行うことで,whirlpool signを見逃しにくくなる効果がある.このような工夫でMRIによる本症の診断率向上に期待したい.
稀な婦人科系疾患である卵管捻転の1女児例を経験した.卵管捻転は,早急な対応が必要な疾患であるが術前診断が困難なことが多く,卵管を温存できることは少ない.自験例ではMRIにより術前診断をし得たが,卵管を温存することはできなかった.女児の急性腹症では卵管捻転も念頭に置いた診察を心がけるべきで,特に付属器捻転等の婦人科系疾患が否定できない場合は,臓器救済のために躊躇することなく,審査腹腔鏡も考慮した早期診断・早期治療を行うことが肝要と考えた.
本論文は,患者のインフォームド・コンセントを得て,聖マリアンナ医科大学生命倫理委員会での審査を得た.
日本小児放射線学会の定める利益相反に関する開示事項はありません.